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弁慶、80年ぶり前橋に降臨
松本幸四郎さん迎え舞踊公演

2025.07.27

弁慶、80年ぶり前橋に降臨
松本幸四郎さん迎え舞踊公演

 歌舞伎役者、十代目松本幸四郎さんを迎えた前橋歌舞伎舞踊公演が7月27日、昌賢学園まえばしホール(前橋市民文化会館)で開かれ、80年前に七代目松本幸四郎が前橋公園で披露した武蔵坊弁慶をひ孫にあたる十代目が熱演した。終戦直後、打ちひしがれていた前橋市民を勇気づけた舞台が蘇った。

疎開した曽祖父の思い込めて

 京都・五条の橋。女人に化けた牛若丸に斬りかかれられ、武蔵坊弁慶は薙刀(なぎなた)を振るって応戦する。主従の誓いを交わす2人の出会いの場面を脚色した「橋弁慶」。十代目松本幸四郎は曽祖父の思いを込めて、弁慶になりきった。

 義経を演じたのは幸四郎さんの長男、八代目市川染五郎さん。荒々しく迫力のある弁慶。華麗で気品のある牛若。橋弁慶では初となる親子の共演で戦時下に先祖が世話になった前橋での恩返し公演の大役を果たした。

▲弁慶を演じた十代目松本幸四郎さん

▲義経役の八代目市川染五郎さん

 七代目幸四郎は1945(昭和20)年5月、家族7人で東京から前橋へ疎開した。「自分の命が助かったのは前橋のおかげ」と感謝し、終戦からわずか2カ月後の10月、「戦災前橋復興舞踊大会」で弁慶を演じて市民を喜ばせた。

▲薙刀を振るう七代目幸四郎=「戦災と復興」(昭和39年、前橋市)より

「前橋」「新橋」「柳橋」

 舞台に続いて、GHQが撮影した80年前の復興舞踊大会の映像が流された。前橋公園の土手まで人で埋まる場面では「おぉー」と会場からどよめきが起きた。

 郷土史に詳しい手島仁さんと日本舞踊家、三代目若柳吉駒さんが戦時下から復興に至るまでの歴史を解説した。

 初代と二代目が復興舞踊大会に出演した三代目は「復興舞踊には前橋の芸妓がたくさん出演した。『新橋』『前橋』『柳橋』と呼ばれ、前橋は芸事が盛んだった」と復興舞踊が成功した舞台裏を明かした。

▲息の合った演技を披露する弁慶役の幸四郎さん(左)と染五郎さん

「時空を超えて舞台に立った」

 最後に幸四郎さん、染五郎さんと前橋市長の小川晶さんらがトークセッションした。

 幸四郎さんは80年前の映像にふれ、「あの時期にあれだけのお客さまが集まったのはすごいこと。いつの時代も歌舞伎や芸能は必要なんだなと改めて感じた」と語った。曽祖父の演技には「凄まじい体幹を感じた」と絶賛しながら、「75歳で欄干に足を掛けないですよ」と呆れたように話し会場の笑いを誘った。

 染五郎さんは「父とともに当時から魂の時空を超えてこの舞台に立たされたような感じ」と感激した様子。父が演じた弁慶役は「1番あこがれている役柄。2歳で初めて舞台に立った時、ご挨拶代わりに勧進帳で弁慶が最後に見せる『飛び六方』の真似ごとをした」との逸話を披露した。

 小川市長は「80年前と同じ演目をいま生きている私たちが見られることに感動した。ご縁のあった大スターが集結してくれたことも感慨深い。前橋と歌舞伎のつながりがあることも知っていただけた」と感動していた。

▲トークショーに臨んだ染五郎さん、幸四郎さん、小川市長

 舞踊公演は市民文化会館内に4月に開館した「前橋空襲と復興資料館」を記念して前橋市と前橋市まちづくり公社が主催した。

▲主従の契りを交わす

▲「橋弁慶」舞台の最後