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【聞きたい みうらじゅんさん▶3】
「神対応」より「紙媒体」
2024.10.30
みうらじゅんさんはパソコンを使わず、原稿は手書き。前橋新聞me bu kuでのインタビューの校正もメールではなくファクスでした。自ら「新聞や雑誌の人間」であるとして「ザシタレ」を名乗っています。me bu kuの将来も語ってくれました。
「ラスト・ザシタレ」
―今回のブックフェスの記者会見で「これからは神対応より紙媒体」と訴えていました。
コメントを求められたので、「記者の人に使ってもらえるならこれをというのを考えてきました。これからは『神対応より紙媒体』。これでお願いします」と言ったのに媒体は使わなかったですねぇ(笑)。
―いえ、前橋新聞me bu kuは使いました。「自身がプロデュースした熟女の写真集や新刊の『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』を巧みにPRしながら、デジタルにはない紙の本の魅力を語った」と記事にしました。
それはありがとうございました。もう、本当に神対応より紙媒体なんですよ。みんな一丸となってもらわなきゃ!
僕はパソコンを使いません。携帯は使いますけどね。いまでも原稿は手書きだし。
若いころはよくテレビにも出ましたけど、タレントみたいな受け答えがちっともできなくて。ま、やる気もなかったんですが。
それは僕が雑誌や新聞、紙媒体の人間であったからです。雑誌のタレント、僕は「ザシタレ」と勝手に命名しているんですが。
テレビは自分が雑誌で連載した企画を持ち込むことも多かったんですよ。だから僕にとってテレビはあくまで雑誌の布教活動だと考えていました。
たぶん僕が「ラスト・ザシトレ」。いまさらパソコン習う気もしないし、このまま死んでいくんだなと思います。
―その雑誌や新聞、紙媒体が元気ありません。
元気ないですね。いま、新聞の仕事は4紙もやっているんですよ(笑)。新聞業界って、どうかしているでしょ?
雑誌もまだたくさん連載していますけど、雑誌も連載が終わる前に潰れてしまうことも多くなりました。連載を途中で打ち切りにじゃなく、廃刊ですから。
―どうして、こうなってしまいましたかね。
バカなことを切ってしまったからだと思います。昔はバカなことに、お金を掛けていた時代です。
こんなことのためにこんなところまで行って写真を撮ってくるとか、そういう無駄なことをしてましたから。そういうところが、雑誌や新聞の面白いとこだって思うし、自分も邁進してきたつもりだったけど、そういうところを切り出したときに、これはもうだめだなって思いました。もう役に立つこと、得になることしか載せない。読者がそう望んでいるからだと。いま、テレビもそうなっちゃってるんじゃないですか。
―新聞もテレビも横並びというか、差がないですね。
僕は小学生2年生のころ、教室の後ろに貼る壁新聞が作りたくて、クラスで絵が上手いヤツと頭がいいヤツをスカウトして、僕が編集長になって4号まで作ったんですよ。誰よりも早く教室に行って貼り出したんですけど、やっぱ先生は怒るんですよ。新聞部でもないのにって。
ネタはこっちの方が断然おもしろいと思ったけど、新聞部じゃないからという理由で剥がされました。
でも、その「ない新聞」が自分の原点だったと思います。
―他と飛び抜けて変わったものを作ろうとすると抵抗がありますね、新聞の世界って。
偽新聞部として言わせてもらうと、新聞社じゃない人が新聞を作っちゃいけないという考え方が古いんですよね。
じゃあ、あなたはなぜ、新聞にこだわっておられるんですか?
―ネットの情報はニュースを含めてフェイクも含まれているし、自分の求める、耳障りのいい情報しか入ってこない危惧を感じます。新聞は情報の裏を取っています。紙のぬくもりに対するエモーショナルな要素も多いですが。
だから、残ってほしいと。僕はこう思うんです。
新聞は大きすぎて、電車の中で折り畳まないと読めない。でも、あの大きさがいいんです。
みんな号外はやたらうれしそうに受け取るじゃないですか。やはり、あの大きさじゃないと受け取った気になれないと思うんです。ていうことは、毎号、号外にすればいいですよ。号外に値する記事を毎日ひとつ見つけてね。
「など。」がしっくり
―職業について、「イラストレーターなど」と「など」を付けます。どうしてですか。
それは、僕、本当に「など」ですからね。
仕事か仕事じゃないか、あまり気にしていないから、やっぱりメーンは「など」ってことになります。
名刺は一応、作っていますが、そこに肩書は入っていません。
何をしているのか分からないと思われる第一人者でありたいと思っていますることは確か。
―いま一番力を入れている仕事は?
一番とか特にないですね。いつもやることは大概四つぐらいあって。
多分、自分の性格からかくるものだと思うんですけど、「など。」がしっくりくるんです。
―糸井さんもコピーライターに始まって、作詞やゲームソフト制作、ほぼ日といろいろなことをしています。
糸井さんの「など。」は昔のことに固執されないから、全部切っちゃうから、毎回、新しいことができるんです。糸井さんと僕は「など。」がきっと真逆なんでしょう。
―「マイブーム」の名付け親です。いまのマイブームは何ですか。
その質問にお答えするのには1週間以上かかりますよ。1997年に流行語大賞をもらってから、毎回聞かれてることですから。最近ようやく少なくなってきたのは、「推し」という言葉が流行ったからでしょう。ようやく、マイブームの呪縛から逃れられそうです。
「マイブーム」は今、広辞苑にも載っている言葉になりましたが、「映画鑑賞ですね」が答えでは許してもらえません。僕の場合、「バカだなァー」とみんなに思われないと許してもらえないんですよ(笑)。
だから、今のマイブームは突然思いついたこと、言い終わった後から好きになるよう努力することなんです。好きにならざるを得ないような状況に自分を持って行く状態、またはその努力がマイブームなんですよ。
―何だか、話をまとめようとして無理な質問をしているようで、すみません。
まとめようとするのが新聞や雑誌の悪いところですね(笑)。まとめるという考え方がきっと、もう古いんですよ。
新聞や雑誌は字数が限られていますからね。仕方ありません。つい、まとめようとする。もう、それでは誰も読まないんですよ。それじゃあ、だめ。ネットのには勝てませんよね。
前橋新聞me bu kuは前橋しか配っていない特性を生かして、(他の媒体とは)まったく違うことを発信していいと思うんですよ。それが、タイトルにもある「新しい風」だと、僕は思いますねぇ。
※【聞きたい みうらじゅんさん▶1】はこちらから。
※【聞きたい みうらじゅんさん▶2】はこちらから。
マイブーム、ゆるキャラ…
みうら・じゅん 1958年、京都市生まれ。武蔵野美術大造形学部卒。漫画家、エッセイスト、小説家、ザシタレ、ミュージシャンなど幅広い分野で活躍、職業は「イラストレーターなど」と公表している。「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。「ゆるキャラ」の名付け親でもある。