天国へ響け　
２月10日、新海弘光メモリアルコンサート

新海さんは、赴任中学の吹奏楽部顧問を務め、コンクールで優秀な成績を残した。全国大会に3度導いたその手腕は、県内外で定評があった。

新海さんと60年来の友の田村次男さん（77）。県立前橋高で出会い、 同じクラスで席が隣同士だった。二人は群馬大教育学部に進み、3年時に新海さんに誘われ仲間と共に「ベルジュラック木管合奏団」を結成。新海さんはクラリネット、田村さんはオーボエで活動、皆んなで「白髪になるまで演奏しよう」と誓った。

教員時代、二人は吹奏楽部顧問として切磋琢磨、コンクール県大会で金賞を取り合い、前橋の吹奏楽人育成に貢献した。

新海さんの初任校は前橋二中。追悼演奏会で指揮を務める山本佳弘さん（67）は、吹奏楽部でトランペットを吹く2年生だった。中学生の山本さんを、新海さんは「トランペットが足りないから来い」と母校群大オケの練習に連れて行き、群大オケやベルジュラックの演奏会にも出演させた。「先生と出会わなければ全く違う人生だっただろう」と振り返る。

二人の交流は、山本さんが中学卒業後も吹奏楽を通じてずっと続いた。

今から20年ほど前のある時、新海さんが「おい、俺がなんぞの時には『ナイルの守り』を必ず演奏してくれよ」と突然切り出すので、変なことを言わないでくれと断ろうとしたが、その場で楽譜を渡され半ば強引に約束する羽目に。そのことはそれきりだったが、山本さんの心の奥にずっと残っていた。

市内で中古楽器店を営む小出啓一郎さん（52）は、新海さんの最後の中学赴任校、前橋三中の卒業生。5〜6年前、縁あってある中学の吹奏楽部の外部指導を依頼された時、新海さんに指導法の教えを乞い何度か面会した。その際に「もう一度先生の指揮で演奏がしたい」と伝えたことがあったが、返答は「それよりも追悼コンサートの準備をしておいた方がいいぜ」だったという。

新海さんが亡くなり、昨年11月25日の告別式の会場で田村さんと山本さんが顔を合わせ、自然に「追悼演奏会を開こう」という話になり、山本さんは20年前にした約束を打ち明けた。そして、近くにいた前橋三中卒業生の渡辺義夫さん（51）を呼び寄せ、演奏会開催の協力を仰いだ。

現在市内小学校教頭を務める渡辺さんは、新海さんと同じ中学音楽教員の道へ。母校に赴任、吹奏楽部顧問の時に新海さんを招いて指導を依頼したこともある。演奏会開催には「先生に感謝の気持ちを演奏で伝えたい、成長した自分の姿を天国で見てもらいたい」と、二つ返事で引き受けた。

その場に小出さんも合流し、二人が幹事役に。直ぐに準備に取り掛かり、手分けをして、新海さんに指導を受けたことのある四中、三中吹奏楽部元部員を中心に連絡が取れる人には全員に声を掛け、12月半ばには新海さんの友人や教え子など合わせて50人以上の編成の楽団が出来上がっていた。

演奏者は市内、県内のみならず、県外からも駆けつける。プロの現役奏者から30数年ぶりに演奏する人と、キャリアは様々。中には、演奏ができない代わりに裏方の手伝いを申し出る人もいたという。

渡辺さんは「母体となる団体がないので、楽譜や大型打楽器の手配など苦労は絶えないが、多くの人、学校や楽団などから惜しみない協力を得て、準備を進めることができている」と話す。

当日はシンカイ・キネン・ウインドオーケストラとして、2人のご子息も交えてベルジュラック木管合奏団と共に、思い出のある12曲の演奏で故人へ冥福の祈りを捧げる。