interview
聞きたい
【聞きたい スプツニ子!さん2▶︎】
運命の赤い糸は つくば生まれ、前橋育ち
2022.01.31
様々なテクノロジーによって生まれる可能性のあるモノや思考、ライフスタイル。そんな未来を考察しながら、映像やインスタレーション作品を制作するアーティスト、スプツニ子!さん。テクノロジーはこんなに発達しているのに、なぜ女性は生理の痛みからまだ解放されていないのかという問いから生まれた「生理マシーン、タカシの場合。」、バイオテクノロジーという新しい技術と神話の共存性を問う「運命の赤い糸をはく蚕-タマキの恋」など、取り組む作品のテーマは多岐にわたる。
愛情ホルモン・オキシトシンを含んだシルク
―遺伝子組換えシルクへの興味はいつ頃から?
「茨城県つくば市にある農研機構の瀬筒秀樹先生の研究チームが、世界で初めて蚕の遺伝子組換えに成功し、蛍光シルクが生まれたというニュースを知って、2010年頃からずっと興味を持っていました。
そんな時、ファッションブランドのグッチから日本で展覧会をしてほしいという依頼が来たのです。そこで遺伝子組換えシルクを使った作品ストーリーのコンセプトを提案しました。
2015年、グッチ新宿のギャラリーで、『Trancefloraーエイミの光るシルク』展を開催。蛍光シルクで織られた西陣織のドレス、ショートフィルム、写真などの空間インスタレーションを展示しました」
―その後、誕生した「運命の赤い糸」。どんな経緯で生まれたのですか?
「グッチでの展覧会を通じて、ゲノム編集に様々な可能性があることを強く感じるようになりました。こうした先進的なバイオテクノロジーによって、人間が神話の世界にしか存在しないような新しい生き物を創り出している状況についても、関心を持つようになりました。
そこで、東アジアで広く言い伝えられている『運命の赤い糸』を創ることができないか、と思ったんです。瀬筒先生に連絡をして協力をお願いし、コンセプトを丁寧にご説明して幸運にも承諾いただくことができました。
そして2016年、シルクの中に愛情ホルモンのオキシトシンと赤色蛍光たんぱく質を含んだ『運命の赤い糸』を作る蚕が誕生したのです」
前橋は養蚕の技術が高い
―このシルクを使った映像作品も発表されましたね。
「遺伝子工学研究者のタマキを主人公とした物語を映像化した『運命の赤い糸をつむぐ蚕ータマキの恋』を制作・発表しました。実はこの映像を制作した頃から、赤い糸をモチーフに空間インスタレーションを創りたいという構想は頭の中にありました。今回、香港のアートフェスティバル『deTour』での展示で、長年の想いが実現しました」
―運命の赤い糸は前橋産だと聞きました。
「研究開発はつくばの農研機構ですが、養蚕は前橋で行っています。群馬県蚕糸技術センターと市内の養蚕農家に協力いただいています。前橋は養蚕の技術力が高く、量産体制を整えるスピードも早い。『deTour』に出品した『Red Silk of Fate-The Shrine』のインスタレーションも前橋で生産した蛍光シルクを使いました」
―群馬県蚕糸技術センターを訪れたことは?
「残念ながら、群馬県蚕糸技術センターを訪問したことはまだありません。でも、これを機会にぜひ伺ってみたいと思います。以前、養蚕農家の写真を見せてもらったことがあるのですが、すごくSFっぽくて驚きました。繭がずらりと並んで、光を放っているんです。その現場をリアルで見てみたいなと思います」
―前橋のシルクでできた「Red Silk of Fate-The Shrine」。前橋でも展示していただけないでしょうか。
「前橋のシルクが香港を経由し、前橋に戻ってくるって、素敵ですね。意味のある展示になると思います。前向きに考えたいですね」
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