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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.27】
蔦屋敷
2023.08.22
見事な蔦に覆われている家に遭遇すると、一体どんな人が暮らしているのだろうかと、思ってしまう。知り合いには1人もいないので、残念だ。
無数の葉っぱの揺れる音はどんな音色なのか。
夏は葉蔭の効果で室内は涼しく過ごせるのだろうか。
どうやったら、家全体をすっぽりと覆い被させる事が出来るのか。その秘伝。
匂いはあるのか。
雨の日はどんな音が伝わってくるのか。疑問が湧いて止まらない。
タイポロジーの写真集を作るのなら、蔦屋敷だけは試みてみたい。
反対に、定点観測写真の対象だけはしたくない。枯れて葉の落ちた様があまりにも寂しいからだ。樹は、何箇所も定点観測写真を続けていて、枯れ木のような状態でも平気なのに、家は駄目なのだ。おそらく、葉の落ちた状態の家屋敷が神秘を失ってしまうからだろう。どこかに謎を秘めているから惹かれるのである。
きっと、生い茂った葉っぱの最後の一枚が落下する日の事を、家主さんは毎年日記に記しているに違いない。もちろん、そのページには、最後の一葉が押花のように挟まれているのだ。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。
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