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井上魚店が6月3日閉店
記憶に残そうアユの塩焼き
2023.06.02
前橋・弁天通りで70年以上にわたって親しまれてきた井上魚店が6月3日閉店する。井上欣也さん(82)、晴美さん(79)夫婦で夜遅くまで切り盛りしてきた、通りに1軒だけの小さな魚屋さん。「人間も冷蔵庫も限界」と看板を下ろすことを決意した。最後の日は名物のアユの塩焼きを提供する。
弁天通りで70年以上の老舗
「はい、いらっしゃい」。白い割烹着を着て、頭には三角巾。腰を曲げながら晴美さんがにこにこ笑顔を浮かべてお客さんを迎える。
寡黙な欣也さんは黙々とマグロを卸し、刺身をこしらえる。2人して時折、腰を労わる姿が痛々しい。
戦後しばらくして先代が都内から弁天通りに移り住み、鮮魚店を始めた。東京五輪の翌年の1965(昭和40)年、現在地に移った。
欣也さんは毎朝、前橋総合卸売市場に出掛け、長年の目利きで安くて美味しい肴を仕入れてきた。何度か大病を患い店を閉めた時期もあったが、20歳から続けた仕事に愛着を持ち、そのたびに復活した。
「弁天通りで一番の働き者」と評判の晴美さんはアジの干物を作ったり、煮物や天ぷらといった総菜を手作りしたりして常連に喜ばれた。
ただ、移転して以来、使い続けてきた年代物の冷蔵庫は頻繁に故障するようになり、昨年夏は長らく休業を余儀なくされた。修理しようにも部品がなく、だまし、だまし使ってきたという。
「お父さんは満身創痍だし、私も腰やひざが悪くて。人間も冷蔵庫ももう限界」(晴美さん)と5月に入り、閉店することを決めた。
「常連さんからは『もっと続けて』と御願いされるけど、もう無理がきかない。私も寂しくて、寂しくて仕方ないけど…」と言葉を詰まらせる。
3日は朝から炭を熾し、夏場に人気だったアユを塩焼きする。
「いっぱい用意したけど、どうなるかな。まあ、最後まで精一杯頑張るよ」。欣也さんは静かにそう言い、包丁を仕舞った。
弁天通りでは3日、大蓮寺の縁日に合わせた毎月恒例の「弁天ワッセ」が開かれ、ライブや手作り雑貨などのフリーマーケットでにぎわった。
井上魚店との別れを惜しみ、アユや刺身を味わう人も多かった。
通りにある「ベンテナショップ」は急きょ3日15時に開店、「勝手に井上魚店感謝祭」と題して、魚をつまみにホッピーを飲むイベントを開く。