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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.23】
「ベランダのアニメ」

2023.04.28

【萩原朔美の前橋航海日誌vol.23】
「ベランダのアニメ」

よく晴れた日は、ベランダが洗濯物に占拠される。その行列に目をやると、下着の影が目まぐるしく動き回っている。いま住んでいるところが5階なので、風が乱舞しているせいなのだろう。まるで激しいダンスをしているような動きなのだ。

思わず撮影してしまった。連続して見ると、抽象アニメーションのようなのだ。

子供の頃、母親に連れられて観たディズニー映画「ファンタジア」を思い出した。クラシックの曲に合わせて、木々や家具が踊りだしたりする幻想的なアニメーションで、圧倒された。ストーリーがなくても、スターが出なくても、映画は人を感動させられる。その映像の力を知った最初の映画だった。

ベランダの洗濯物の影が、一日中繰り広げる激しい動きは、前橋の風を表現した「ファンタジア」なのだ。私は夢中になって、一日中自分の下着を撮影し続けてしまった。

 

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。