interview
聞きたい
【聞きたい萩原朔美×東出昌大4▶︎】
「朔太郎の孫」への思い入れ
2022.11.17
偉大なる詩人を祖父に持つ萩原朔美さん。若いころは「朔太郎の孫」と言われることに嫌悪感を持っていたそうです。「現代美術の作家」として認められた瞬間、感激して大泣きすると同時に、「朔太郎の孫」であることに思い入れがあったと気付きました。
サルトルにニーチェ
萩原 実は私は若いころ、小説は好きじゃなかったな。ほとんど読まなかった。圧倒的に衝撃を受けたのはサルトルでしたね。実存主義です。「ヒトの存在には本質がない」と言われるのはショックなのよ、若い時はね。
東出 僕は若いとき、背伸びしてニーチェとか読んだけど、まったくピントこなかった。でも、ソクラテスとか、プラトンとか、いま読まないといけないんだなと思う34歳です(笑)。
変なことを聞きますけど、朔太郎の孫であり、葉子さんの息子。出自は選べないでしょうが、文学的な才能は遺伝するのでしょうか。
萩原 どうなんだろうね。遺伝もあるのかな。でも、誰だって書けるって。
東出 いや、どんな分野でも普通は小さいころからの下地があって修練していって上達するわけでしょう。それを若いころほとんど本を読んでいないと聞きましたが、それでも雑誌の編集をしたり、名文をかけるっていうのは何か遺伝的な要素がありそうですよ。
世田谷美術館に全作品収蔵
萩原 雑文だけどね、ただね、上手いのよ俺(笑)。
これまでずっとどこに行っても「朔太郎の孫」と言われてたけど、昨年、世田谷美術館の学芸員が私に対して初めて「孫」として扱わなかった。
私の作品を全部収蔵してくれたんだけど、その時に「うちは『現代美術の作家』として扱います」と言ってくれて、私は大泣き。75歳の男が泣きながら家に帰ってきた。
東出 それはどんな心境から?
萩原 そのとき、初めて自分はそんなに「萩原朔太郎の孫」ということに思い入れがあったんだと気が付いたんです。若いころは「孫」と言われるたびに、「うるせえよ、お前らって」と嫌がっていたんだけどね(笑)。
詩人の孫だから「詩を書くんだろう」っていわれたけど、詩は書けない。本は20冊くらい出し、本なんていつでもかける。散文なんて簡単。片手で書いてやるよ。けど、詩は書けない。それは乗り越えられない。だから、そこは自分で自覚しています。
はぎわら・さくみ
1946年、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら演出や映像制作も始め、版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。2016年4月から前橋文学館館長の就任。多摩美術大学名誉教授。金沢美術工芸大客員教授。アーツ前橋アドバイザー。
ひがしで・まさひろ
1988年、埼玉県生まれ。高校時代にモデルとしてデビュー、パリ・コレクションにも出演する。2012年に映画『桐島、部活辞めるってよ』で俳優に転身。NHK連続テレビ小説の好演技で人気がブレイク、映画、舞台と幅広く活躍する。狩猟免許を持ち、みなかみ町などで狩猟をする。
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