interview

聞きたい

【聞きたい宮崎晃吉さん2▶︎】
古アパートを生まれ変わらせる

2022.11.06

【聞きたい宮崎晃吉さん2▶︎】
古アパートを生まれ変わらせる

大手設計事務所で大規模プロジェクトに携わった宮崎さん。学生時代から住んでいたアパートが取り壊されることになり、「葬式」を企画しました。これがきっかけとなり、壊すことなく再生することになりました。リノベーションの始まりです。

谷中の街全体を宿に見立てる

―大学院修了後、県立近代美術館の設計も手掛けた建築界の重鎮、磯崎新氏の事務所に勤務しました。

中国の劇場の設計に携わりました。3万平方㍍、1500人収容という大規模なプロジェクトです。大きな建物を任されるわけで、それなりにやりがいは感じていました。

ただ、依頼主の顔は見えず、本当に欲しているものを造っているのか、どう使うのか、よく分からなかった。当時の中国は高層ビルがどんどん建設されていた。仕事に、造ることに疑問を感じ、東日本大震災を機に事務所を辞めました。

―学生時代から東京・谷中の古いアパートで暮らしていたそうですね。

築60年の木造アパート「萩荘」を一棟丸ごと仲間と借りて暮らしていました。愛着のある建物でしたが、壊して駐車場にすることになって、「せめて葬式をさせてください」と御願いしました。大家さんはお寺さんでしたので許可してくれました(笑)。

―建物の葬式とは珍しいですね。実際にどんなことをしたのでしょう。

アーティストが20人集まり、「死に化粧」を施す「ハギエンナーレ」を3週間開きました。口コミだけで1500人も集まったのを見て、大家さんの気持ちが変わった。「壊すのはもったいないな」と。結局、リノベーションして自分が借りることになり、カフェとギャラリーを併設した設計事務所とした。「最小文化複合施設 HAGISO」の誕生です。

―宮崎さんが手掛けたリノベ第1号ですね

時代の必然性でした。空き家がどんどん増え、社会問題になっている。リノベすれば、ごみもCO²も出さなくて済む。大事なのはただかっこよくすればいいのではなく、どのように使うかです。

谷中では現在、7軒を借りて宿泊施設や惣菜店を運営しています。宿では食事は提供せず、近くの飲食店で美味しい料理を楽しむ。風呂は銭湯に行ってさっぱりしてもらう。一軒で囲い込まず、街全体を宿に見立てるわけです。

谷中は根津、千駄木と並んで「谷根千」と呼ばれる人気スポットで、昼間は観光客がたくさん訪れる。ただ、夜は閑散としていて、街にどうお金を落としてもらうかが課題だった。もちろん、ここで生活している人にとっては日常があり、観光地化しすぎることへの懸念はお持ちのはず。にぎわいの創出と、どう折り合いをつけるかも考える必要はありますね。

みやざき・みつよし

1982年、前橋市生まれ。群馬大附属中―前橋高-東京藝大大学院修士課程修了。磯崎新アトリエ勤務を経て独立する。2013年に「HAGI STUDIO」を設立、東京・谷中を中心に空き家をリノベーションし、飲食、宿泊業を展開している。