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「薔薇の詩人」大手拓次を特集
前橋文学館で9月19日まで企画展

2022.06.08

「薔薇の詩人」大手拓次を特集
前橋文学館で9月19日まで企画展

「薔薇の詩人」であり、コピーライターでもあった大手拓次に焦点を当てた「すべてのものをすてて、わたしはよみがへる。-大手拓次展」が前橋文学館で9月19日まで開かれている。その内容をリポートする。(取材・中村ひろみリポーター)

36本の赤いバラの柱

会場には拓次の詩が書かれた赤いバラの柱が立ち並ぶ。拓次が晩年に書いた「薔薇の散策」(1933年発表)という36連の連詩を造形化したもので、むろん36本ある。会場の奥の壁では、耽美で、美しく、どこかもの悲しい拓次の詩を群馬の演劇人たちが読み上げる映像がエンドレスに流れている。
「磯部出身の大手拓次は生誕135年を迎えた。萩原朔太郎とも懇意だった拓次の、当館初の単独企画展となります」。担当の新井ゆかり学芸員はビジュアルにも拓次らしさを出そうと、企画展全体のコンセプトを薔薇でまとめあげた。

コピーライターでもあった詩人

見どころのひとつは、拓次が小林商店(現ライオン株式会社)の広告部文案係時代に手掛けた児童雑誌『赤い鳥』の広告。文案係には何人かの社員がいたので、すべての文言が拓次の作ではないが、直接商品を訴求するのではなく、夢のある、やさしいコピーライティングに象徴詩の技法が生かされている。

「広告にあっても、拓次のにおうような、やさしい言葉の使い方を確かめてほしい。詩人を雇った企業の懐の深さを感じます」と萩原朔美館長も絶賛する。

▲「赤い鳥」は鈴木三重吉が1918(大正7)年に創刊した児童雑誌。全巻196冊のうち67冊に「ライオン歯磨」の広告が掲載され、モダンで洗練された広告が注目された

しかし文案係での仕事は広告にとどまらなかった。商品の説明書(能書き)やエッセイのほか、香りや色が人間に与える影響について考察した論文もあり、コピーライターとしては単なる夢見心地ではなく、理論派でもあったことがうかがえる。

「小林商店勤務時代は、歯磨の香料を開発する研究所にも通っていたようで、そのことが晩年に向けて“におい”や“薔薇”への関心を高めていくきっかけにもなったのでは」と新井学芸員は解説する。

一つ違いの朔太郎との親交

一つ違いで同じ上州の生まれ、白秋旗下の三羽鴉とも言われた拓次と朔太郎だが、会う機会は多くなかった。しかし、作品や書簡を通しての交友は深く、朔太郎は拓次に「二人の雑誌を出したい」とラブコールを送り、ぜひ詩集を出すべきだと激励した。

朔太郎自身、第二詩集である『青猫』(1923(大正12)年・新潮社)はあきらかに大手拓次の影響を受けていると述べている。

▲1917(大正6)年4月17日消印の朔太郎から拓次宛の書簡。1916(大正5)年11月に始まる二人の文通は、まるで恋文のよう

死後、友人によって多くの詩集

「お忙しい生活の間にも詩を捨てることのできないあなたの心もちをこの上もなく貴重なものに思ひます。」と、朔太郎は、会社勤めを続けながら、独特の世界を築き上げた拓次をこの上なく敬愛した。

このことは朔美館長が、企画展のあいさつ文の中で記した「詩人、というのは肩書きではなく、一つのライフスタイルのことではないだろうか。表現することだけに人生を使い切る、そういう人を詩人と呼ぶのだ。」という言葉と呼応する。

人生を使い切って早世した拓次。生前に一冊の詩集も出さなかった「詩人」のために、拓次の死後、小林商店時代からの親友・逸見享らの尽力によって、代表作の詩集『藍色の蟇』(1936(昭和11)年刊)はじめ、詩集や詩画集が刊行された。

▲『藍色の蟇』(1936年・アルス社)拓次の没後、良き理解者であった親友・逸見享の編集で刊行。序文 北原白秋、跋文 萩原朔太郎

生前出された希少な詩版画誌

今回の企画展では、そんな拓次、それも生前の拓次と親友・逸見享による詩版画誌『黄色い帽子の蛇』(1918(大正7)年刊)が展示される。これは現存が二点しか確認されていない希少な一冊である。この一冊は誰あろう、先日の第50回朔太郎忌・シンポジウムで初版本の魅力を余すところなく語ってくれた、近代文学研究者の川島幸希氏所蔵の一冊である。6月19日までの期間限定展示なので、早めの観覧をおすすめする。

▲1918(大正7)年、拓次と逸見享が結成した「あをちどり舎」から出された詩版画誌『黄色い帽子の蛇』展示スペース。展示の冊子は撮影禁止だが、川島氏提供による画像で、版画と詩の様子がわかる

9月19日までの会期だが、この詩版画誌のほか、直筆原稿はじめ3回の展示替えが予定されている。

7月9日(土)、8月7日(日)の14時からは学芸員の展示解説がある。前橋七夕まつり開催日と9月3日、最終日の9月19日は観覧料無料となる。

粗野なイメージの強い上州にあって、繊細で鋭敏な感覚を持ち続けた大手拓次、そして萩原朔太郎。前橋文学館の赤いバラの柱のかげに、詩人のふるえる魂が、よみがへる。

▲企画展の入口

大手拓次

1887(明治20)年11月3日-1934(昭和9年)4月18日。磯部温泉・鳳来館の次男として生まれる。思春期に左耳難聴になるなど、病弱に悩まされたが、早稲田大学在籍中にボードレールなどに触れフランス象徴詩に傾倒、訳詩も手掛ける。北原白秋門下で、萩原朔太郎、室生犀星とともに「白秋旗下の三羽鴉」と呼ばれた。小林商店(現ライオン株式会社)で長年、広告部文案係(コピーライター)を務めた。生涯で2400篇にも及ぶ詩作を行ったが、46歳で結核で早世。生前発行された詩集は無く、没後、友人らの手によって詩集『藍色の蟇』、詩画集『蛇の花嫁』、訳詩集『異国の香』、『詩と日記』が刊行された。

(画像提供:前橋文学館)

「すべてのものをすてて、わたしはよみがへる。-大手拓次展」

期間/2022年5月21日~ 9月19日

時間/9時~17時

休館/水曜

会場/前橋文学館2階企画展示室(前橋市千代田町3-12-10)

電話/027-235-8011

観覧料/一般500円 (高校生以下無料、障害者手帳を持っている人と介護者1名無料)

https://www.maebashibungakukan.jp/