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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.55】
レシートが語る前橋の10年

2026.03.08

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.55】
レシートが語る前橋の10年

 

 今年で10年目を迎えることになった。前橋文学館に初めて足を踏み入れて、何処にもない個性的な文学館とはどんなものなのか。模索しながらチャレンジする日々だった。

 だから、実感としてはまだ数年しか経っていないような、あっという間の、瞬き数回しただけの年月に思える。挑戦することは、新しいことを発見することなので、気持ちだけは若者でいなければならない。だから歳を重ねた気がしないのだ(笑)。

 住処は、3度変わった。今はケヤキウォークのそばで、窓からの景色を毎日撮影し続けている。

 続けていることは、もう一つある。買い物した後に手渡されるレシートを、ずっと保存しているのだ。レシートには日付が印字されているので、日付のコレクションなのである。だから、合計金額等の部分は鋏で切ってしまう。

 これを最終的にはどうするのかというと、表紙に店名が印刷された冊子にするのである。で、結局どうなるのか。10年も経過すると、レシートの印字された文字は薄れて、やがて白い紙になってしまう。

 つまり、私のレシート・コレクションは、やがて中身が白い本に変身するのである。10年間という前橋時間が作り出した白い本。誰も読まない白い本(笑)。

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

 1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。