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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.52】
写すたび、さよなら
2025.12.06
不思議な事がある。
たとえば散歩の途中にあるベンチを撮影する。画像を見ると、なんだか物語が始まりそうな雰囲気なので、そのベンチをずっと撮影し続けようと決める。
すると、いきなりある日、ベンチが消えているのだ。
ベンチに限らない。何年前から、両毛線車内で見かけた、日付けの印字されたシールを撮影していたら、数ヶ月後に全ての車両からなくなってしまった。
看板。道路標識。家。空き地。色々なものが、撮影し始めると、手品のようになくなってしまう。
全く不思議でならない。なので、今ではいずれなくなると思って、愛おしいさに後押しされながら、撮影しているのである。撮影とは「さよなら」と声を掛ける事なのかも知れない。
Sakumi Hagiwara
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授(現在は客員名誉教授)、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。


