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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.38】逃げられない定点観測
2024.09.05
現在、市内の46ヶ所、定点観測写真を撮影し続けている。歩ける範囲だから、とりわけ珍しい景色という訳ではなく、どこにもありそうな場所ばかりだ。
だけど、何年も撮り続けていると、だんだん愛着が湧いてきて、どの場所も好きになってしまった。
定点観測写真は、20代から始めたので、実はもう飽きている。今や惰性で続けているのだ。(笑)始めは、四季の変化が新鮮だった。雪でも降ろうものなら、撮影チャンスとばかり喜び勇んで外に飛び出した。今は雨が降っただけで、外出が億劫になってしまった。
しかし、以前書いたように、定点観測写真は、映像による演奏行為だから、心臓がリズムを刻むように、撮影はやめるわけにはいかない。(笑)
しかも、最近何ヶ所か気になる場所が出現して、それも加えたくなってきた。それが近所ではなくて、やけに遠い場所なのだ。飽きているのに、そんな遠距離を歩く苦行を自分にかすとは。自分に呆れている、77歳の私である。「他人からは逃げられる。自分からは逃げられない」という「ライムライト」のセリフを思い出した。(笑)
萩原朔美(はぎわら・さくみ)
1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。