watch

見たい

能面に親しもう 
21日まで清水和夫 能面展

2024.04.15

能面に親しもう 
21日まで清水和夫 能面展

御歳97歳の能面師、清水和夫さんの作品展が、4月15日から21日まで上小出町の「ぎゃらりーFROMまえばし」で開かれている。展示作品は、若者から老人、恐ろしいものからユーモラスなものまでと、バラエティーに富む20面。能の知識が全くなくても、面の美しさや多彩さを楽しむことができる。清水さんに能面打ちの世界について聞いた。(取材/柁原妙子リポーター)

面を打つことの奥深さ

清水さんは、56歳の時に4歳年下の師匠橋岡一路さんに弟子入りした。展示の中ほどにある《小面》は、その年に初めて打った作品だ。

「先生から、ちょっと膠(にかわ)が厚すぎたようですね、と言われてしまった」と笑いながら明かす。確かに他の作品よりも光沢が強く、言われてみればどことなく初々しさが感じられる。とは言え、初めて打ったものとは思えない完成度だ。

橋岡さんの元で修行していた10年間は1年を費やして一つの面を手掛けたが、40数年を経た今は3カ月程度で完成させる。今までに打った面は83種類、総数は200面を超える。

通常、能面師はその所属流派の本面しか写せない。弟子が手本にできるのは、師が本面を写した面のみ。

そうしたしきたりのある中で清水さんが多種の面を打てたのは、橋岡さんが観世流能楽師の名家の出で、他流派の本面も写せたことが幸いした。

面を写す、と言うが、単なるコピーを作るわけではない。面に込められた意味を、能面師が自分なりに解釈して現す。深い精神性を表現する面打ちには高い人間性が求められると気付いた清水さんは、世阿弥芸術論集を読み込むなど、先人の叡智を学ぶ精神修養にも勤しんだ。

面の裏に施す焼印の名は「吾中(ごちゅう)」。吾は出身地の吾妻、中は儒学の概念の中庸から採った。

定年後から歩むこの道

少年時代には戦闘機に憧れ、会社員時代は製品開発に邁進した清水さんに転機が訪れたのは、48歳の時。伊能忠敬の生き様を知り、衝撃を受けた。自分も後半生を何かに懸けて生きたいと憧憬した。能面との出会いはその後のことになる。

孟子の『志氣之帥也(しはきのすいなり)』が好きな言葉だという。「理想を掲げることが気の源になる。そのように生きていたら、いつの間にか97歳になっていた」。座右の銘が長生きの秘訣になった。

100年近く生きてきた清水さんの話はどれも含蓄に富む。作家在廊日もあるので、ぜひこの機会に直接、話を聞いてみては。

清水和夫 能面展
会期 4月15日(月)〜21日(日)11時〜18時(最終日17時まで)
作家在廊日16日、17日、20日、21日
会場 ぎゃらりーFROMまえばし(前橋市上小出町2-10-18)TEL027-232-6838

 

清水和夫

横浜市在住。1927年(昭和2年)中之条町大字伊勢町に生まれる。中之条尋常小学校、群馬県立前橋中学校、東京都立理工専門学校(入学時・東京府航空工業専門学校)、東京工業大学機械科卒業。新日本製鐵株式会社(現日本製鉄株式会社)社員、多摩鋼管工業株式会社役員を歴任。

48歳の時、伊能忠敬の生涯に感銘を受ける。1977年(昭和52年)面打ちを始める。1983年(昭和58年)淡交舎(橋岡一路主宰)に入門。1993年(平成5年)淡交舎を退舎。現在までに83種類、200面以上を制作。2023年まで高崎にて面清会を主宰、面打ちを指導。

1993年(平成5年)煥乎堂ギャラリィにて初の個展。以降、前橋、中之条、横浜、代々木等で個展、高崎にて面清会展開催。国外では2004年(平成16年)アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア「松風荘」50年記念行事にて能面展開催。ぎゃらりーFROMまえばしでは2009年〜2024年(平成19年〜令和4年)8回開催。

平成14年中之条町役場に「小面」「若女」寄贈。平成20年群馬県立前橋高等学校に「小面」寄贈。宝生能楽堂に14面貸与中。