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【萩原朔美の前橋航海日誌vol.15】「故郷」

2022.09.17

【萩原朔美の前橋航海日誌vol.15】「故郷」

空を見上げて目に止まった電線が、五線譜に思える事がある。

蔦が絡まる家を目撃して、蔦が家の形に生えているように見える事がある。

道路の白線を見て、子供の頃、ロウセキで描いた電車の線路を、老人になった自分がまだ描き続けていると言う幻想が浮かんでくる。

街灯の灯りをボンヤリ眺めていると、月が大木に引っかかって困っているように感じる事がある。

駅のベンチに座っていると、ここから出発した自分が、またここに帰ってくるような気がする。故郷とは地理学の話ではない。故郷とは生き方の事だと思う。

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

194611月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。昨年、世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵された。著書多数。現在、多摩美術大学名誉教授。20164月から前橋文学館館長。2022年4月から、金沢美術工芸大客員教授、アーツ前橋アドバイザー。