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学びたい
【連載▶3】赤城山と青い空が好き
前橋に高層マンションは必要か
2025.01.05
赤レンガ館前にも15階建て
盛岡市を流れる中津川の南は河南地区と呼ばれる。藩政時代からの商業地であり、木造の老舗とレンガ造の近代建築が混在する街並みがいまも残る。
そんな河南地区はいま、紺屋町の物件以外にも高層マンションの建設が相次いでいる。
国重要文化財の岩手銀行赤レンガ館の向かいには15階建ての建設が進み、2025年3月から入居が始まる。「『岩手山』『盛岡城跡公園』を一望する圧倒的眺望」とホームページには謳っている。確かにそうだろう。だが、赤レンガ館を威圧するかのような高さはすでに周りの佇まいと調和していない。
町家の街並み守った鉈屋町
「盛岡は景観に関して先進地。都市景観形成ガイドラインは全国で一番早くできた。市民の小さな声を汲み上げた人が民間にも行政にもいました」。そう語るのは歴史を生かしたまちづくりを考える市民団体「文化地層研究会」の事務局を務める金野万里さん。
岩手国体をきっかけに1970年代、「岩手方式」と呼ばれる景観を大事にする市民主導型のムーブメントが起こり、脈々と受け継がれてきたという。
近年の象徴的な成功例として教えてくれた「鉈屋町」に向かった。なだらかに曲がる道路沿いには江戸時代の面影を伝える町家が並び郷愁を誘う。玄関には格子が設けられ、外観は落ち着いた色調で統一。電線の地中化も進められつつある。
もちろん、高層の建物はなく地区計画によりこれからも建つことはない。
鉈屋町の街並み保存には2003年に発足した「盛岡まち並み塾」の存在が大きい。盛岡駅から遠いため開発が後回しになり奇跡的に残った街並みを守ろうと、建築家が住民を巻き込んで勉強会を開いた。
「寒くて暗い家を嫌がっていた住民も歴史を知ると、『結構いい町かも』『壊すのはもったいない』と心変わりするようになった」と金野さん。市も町屋の修理費を補助し保存を後押ししている。
そんな盛岡でいま起きているマンション騒動を金野さんは「市も市民もぼんやりしていた」と自戒を込めて分析する。
「紺屋町の『菊の司』の跡地は気付いた時は売却されていた。八角形の井戸があり、木組みだけでも残したかったけど、もう処分されていた」。金野さんは残念そうに話しながら、これからに期待する。
「市は大反省しているでしょう。条例などで規制しておけば防げたかもしれないのですから。住民もそう。経済か景観か。何が大事か。まちづくりを自分ごとと考えてほしい」
市長、条例改正に強い意欲
紺屋町のマンション建設を契機に盛り上がった盛岡市の景観問題。師走に入り大きな動きがあった。
内舘茂市長は12月2日、記者会見で「高層マンションの建設に対しては、地域が望む景観形成に関し、地域住民、事業者及び市が事前に協議できる仕組みが必要」と述べ、条例改正に強い意欲を示した。
市内でマンション建設計画がある場合、早い段階で高さをはじめとする建築内容を把握し、住民、事業者、市の三者で協議できる仕組みを構築する。
紺屋町の物件のように、住民が知らない間に計画が進み「手遅れ」とならないようにするためだ。
市都市整備部景観政策課の三橋一仁課長によると、条例は今年3月までに素案をまとめ、意見公募、審議会を経て、25年度9月市議会に改正案を提案、26年4月1日の施行を目指している。
「市役所に入って30年。こんなにスピード感を持って大事な条例改正に取り組むのは初めてです」と三橋課長が驚くスケジュールの設定に内舘市長の本気度が感じられる。
条例と合わせて、中心部の地区ごとの「まちづくりの方針」を25年度中に定める。紺屋町は高さ制限が可能となる地区計画や景観地区に指定する方向で検討する。
問題を提起することになった「紺屋町まちづくりの会」には市職員も参加している。
「声をかけてもらってうれしかった。市民と一緒にまちづくりを考えることができた。400年前、盛岡城が建てられた時の町割りを感じられる景観を後世に残せる」。行政マンから一市民になった三橋課長が笑顔を広げて語ってくれた。