study
学びたい
みやま文庫 未来へ繋ぐ
民間に業務委託、編集体制一新
2024.11.15
60年余りにわたり会員制で群馬県の歴史や文化を伝える書籍を発行してきた「みやま文庫」は運営を朝日印刷工業に委託するとともに編集体制を一新した。会員制による出版団体は全国的にも極めて希少。会員の減少により存続が危ぶまれている中、郷土に出版文化を根付かせ後世に伝えようとした設立の精神を継承しながら、新しい感覚で企画、編集、デザインを追求し、みやま文庫の魅力を発信していく。
戦後の三大文化運動
専従の編集者はこれまでいなかったが、編集長に上毛新聞社で論説委員長を務めた藤井浩さんが就任した。さらに、同社で長く出版事業を担当した富澤隆夫さんが編集担当となり、朝日印刷工業の企画・編集スタッフとともに出版する書籍のテーマや筆者の選定から編集、校閲作業まで一貫してあたる。
みやま文庫の功績、意義を藤井編集長は「群馬交響楽団、上毛かるたと並ぶ戦後の三大文化運動」と最大限に評価する一方、現状については「結果として、魅力ある本が届かなかったことが会員減を招いた。組織の在り方にも問題があった」と分析する。
著者や分野の選定に近年は偏りが出てきた弊害も指摘し、「教育者や研究者だけでなく、実践者や活動者に書いてもらい、扱う分野も広げたい」と強調する。
萩原朔美さんも執筆
本格稼働する来年度以降は美術、演劇、スポーツを題材とした書籍の発行を計画、「魅力ある本」を出すことで持続可能な運営を目指す。
中でも話題となりそうなのが前橋文学館特別館長、萩原朔美さんに依頼している自由な発想による一冊。全国の文学館では例を見ない革新的な展示、運営手法を持ち込んだ萩原さんがどんな視点で前橋や文学館を表現するか、注目の本となりそうだ。
安定運営に企業協賛
朝日印刷工業の石川靖会長は運営を受託した理由について、「本を作ることで成り立ってきた会社の宿命であり、郷土への恩返し。出版文化を守っていかなければならない」と明確に説明する。
前橋BOOK FESの盛況ぶりにふれ、「あれだけの人が本のために集まった。デジタル社会への反動で、アナログに飢えている人が多いのではないか。いいコンテンツや仕掛け方次第で会員を引き戻せる」と自信をのぞかせる。
運営に関しては、同社が得意とする1冊から発注できるオンデマンド印刷を使っての絶版となった本の印刷受注や書店での非会員への販売促進、情報発信の強化に努めていくと説明する。
さらに、「出版文化を応援しようとする企業があってもいいのではないか」と協賛企業を募り、会費と県からの補助金に加えての三本の矢で安定運営を図る方針を示した。
みやま文庫への会員登録や問い合わせはこちらから。
1961年設立、251巻を発刊
みやま文庫 1961(昭和36)年3月、群馬県知事を会長とする任意団体として設立、県立図書館に事務局を置いた。第1巻の『赤城-ふるさとの山』以来、251巻を発行している。会員制としているため、商業ベースに乗りにくい良質な書籍の出版ができ、各分野の研究者の発掘や育成に貢献してきた。地域の文化振興に尽力した功績が認められ、1992(平成4)年に文部大臣表彰を受賞した。会員は1977年の3800人をピークに減少、今年8月末時点では656人となっている。