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【体験ルポ】飼い主のいない猫と人に最善の方法とは?
TNRの現場に行ってきました。

2023.08.16

【体験ルポ】飼い主のいない猫と人に最善の方法とは?
TNRの現場に行ってきました。

昨年、前橋市で殺処分された猫は81匹。望まれない命をこれ以上増やさないため、現時点で最も有効な方法と言われているのが、猫を安全に捕獲して(Trap)、不妊手術を施し(Neuter)、元いた場所に戻す(Return)。通称、TNRだ。2020年に立ち上げ、城南地区の保護猫活動をしている西大室社会福祉協議会地域猫部「西大室ねこねこネットワーク」を訪ね、TNRのT、捕獲の現場に立ち会った。

始まりは1匹のメス猫から

「地味な活動ですよ」。取材依頼の際、西大室ねこねこネットワーク代表の中澤美弥子さんは電話口でつぶやくように言った。活動日となったのは、日中37度を超える猛暑日。暑さが和らぐのを待ってメンバーたちは依頼主の元に向かった。この日の依頼主は60代のご夫妻。家の外にいる成猫のメス4匹のうち、出産間もない1匹を除いた3匹をTNRしたいという。

 

▲エサを求めてやってくる猫たち

夕刻になると依頼主の庭先に、猫たちが集まってきた。成猫に混ざって、ちょこまかと動く小さな影。聞けば、5匹の成猫と8匹の子猫がやってくるのだという。

いままで依頼主は、何もしなかったわけではない。以前から家の周りにやってくるのら猫をどうにか手なづけて、8匹を手術した。それをかいくぐったメス猫が妊娠。生まれた子猫のうちメス猫3匹が残り、いつしかオス猫2匹も来るようになった。

「まさか生後1年未満で出産するとは思わなかった」と依頼主。この春、4匹のメス猫は計8匹の子猫を生んだ。1シーズンで猫の数は倍近くに。「もう自分たちの手には負えない」と「西大室ねこねこネットワーク」に連絡をしたという。

▲子猫の姿も目立つ

身を潜めてひたすら待つ

おとり用のフードを入れた捕獲機3台を仕掛けてその場を離れ、身を潜めて猫がかかるのを待つ。確かに地味な活動だ。

今回のTNRがいつもと違うのは、対象が3匹のメス猫と限定されている点。オス猫や子猫が捕獲機に近づいてくる度にスタッフや依頼主が追い払いに行く。その姿に警戒心を高め、遠巻きに見つめる猫たち。そんなことを繰り返すこと1時間半。カタンというかすかな音が響いた。

次の瞬間、捕獲機の中で猫が暴れるガシャガシャという音と低い唸り声。かかったのは、お目当てのうちの1匹だった。それに気を取られていると、別の場所でまたカタン。慌てて向かうと2匹の子猫が捕獲機の中に納まり、パニック状態に陥っていた。

「こちらが望む子だけを捕獲するのは難しい。全頭手術にしませんか?」。中澤さんの言葉に依頼主は静かに頷いた。

 

▲捕獲機をセットする中澤さん(写真右)とスタッフ

▲捕獲機の上にのり、心配そうに母猫を見下ろす子猫

捕獲機を仕掛けて2時間。残り1つの捕獲機はまだ空のままだが、夜の間にかかる可能性は高いと判断してスタッフたちは現場を離れた。捕獲できた猫たちは、涼しい室内に移され、翌朝、犬猫タウン前橋病院で手術を受ける。全頭手術に向け、翌週、残りの猫たちを捕獲する予定だ。

「中澤さんたちの協力で覚悟が決まり、ホッとした」と依頼主。今まで手術をした猫たちは、居つくことはなかったと言う。今回もまた姿を消してしまうかもしれない。

「TNR後、この子たちが姿を見せればフードや水をあげ、見つければ糞尿の始末もする。子猫たちも手術を受けさせ、庭先で面倒を見るつもり」と話す。

▲捕獲機を布で覆うと不思議と猫たちは静かになる

人も猫も安心して住める地域に

「エサをあげれば猫は増える。だからと言ってエサをあげるな、というのは違う」と中澤さん。人も猫も同じ地域で暮らす命であることに変わりはない。「だったらお互いに安心して気持ちよく暮らしたいじゃないですか」と笑顔を見せる。

同会の活動エリアは、城南地区。依頼や相談を寄せるのは、エサをあげている人、糞尿被害や発情期の鳴き声に悩む近隣住人からということもある。依頼先に出かけて調査し、エサやりをしている人と十分な話し合いを重ねたのち、手術日に合わせて捕獲機を設置する。翌朝、基本的には依頼主が病院に連れていき、手術が済んだら元いた場所で猫を放す。TNRには、依頼主の協力が欠かせない。

▲手術をするのに満たない月齢の子猫は里親探しをする

野良猫の命は家猫よりずっと短く3~5年と言われている。「これ以上増えないこと、エサやりや糞尿などの世話をすることを伝えると納得してくれる人は多い」と言う。

しかし「精神的に辛くなることはたくさんある」と中澤さん。理解してもらえないとき、きりがないと感じたとき、子猫の里親が見つからないとき。矛盾するようだが、子猫を里親宅に届けたあとの喪失感も大きい。それでも頑張れるのは仲間の存在、そして安心して過ごしている猫たちの姿だ。

「次は、〇〇の現場の下見だね」と、予定を確認するメンバーたち。人にも猫にも心地よい環境が、少しずつ広がっていく。

 

※不妊手術の費用は依頼主の負担となる。普通の動物病院の場合、1匹2~3万円かかるが、同ネットワークでは協力病院にお願いし、その1/3程度の費用で行っている。

※同ネットワークでは猫の引き取りは行っていない。

 

▲体重が2㌔㌘らいになれば手術は可能

西大室ねこねこネットワーク

お問合せはこちら
090-9136-9636(中澤さん)
メールアドレス nishiomuro22@gmail.com