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【体験ルポ】
長い廊下の先にある静寂
忠治館が生まれ変わった「赤城山-懐-」

2026.07.04

【体験ルポ】
長い廊下の先にある静寂
忠治館が生まれ変わった「赤城山-懐-」

 赤城山南麓に昨年9月、温泉旅館「赤城山-懐- futokoro」が開業した。1939(昭和14)年創業の「忠治館」の歴史を受け継ぎ、2024年の閉館から約1年を経て新たな宿として再出発した。犬用設備も充実し、宿泊客の多くが愛犬連れという。しかし、それだけで語るには惜しい。赤城山の自然と趣ある建物、手間ひまかけた懐石料理を味わう、大人のための上質な宿だった。
(取材/阿部奈穂子)

新緑と冷たい泡のお出迎え

▲駐車場から石段をのぼって

 駐車場から宿へ向かう石段を上っていると、「スイスイスイ」という鳥の声。ヒヨドリだろうか。

 まぶしい新緑に包まれ、まちなかから車でわずか30分ほどとは思えない静けさがある。

▲木の扉の向こうに宿の時間が始まる

 木製の引き戸を開けると、開放的なラウンジが広がっていた。一角にはウェルカムドリンクが並ぶ。赤城湧水を使ったレモン水、赤城山麓の梅を使った甘露煮。そして、キンキンに冷えたスパークリングワインがうれしい。

 隣には、愛犬用のおやつも2種類用意されていた。

 窓の外の緑を眺めながら腰を下ろすと、自然に肩の力が抜けていった。

▲寛げる開放感たっぷりの広いロビー

建物の中の小さな町

 忠治館は赤城山麓で長く親しまれてきた旅館だった。閉館を惜しむ声もあったが、その歴史や趣を受け継ぐ建物として生まれ変わった。

 「忠治館は法人としては創業90年近くになりますが、建物自体は1993(平成5)年に生まれたもの。この堂々たる躯体をいま、新たに建てることは難しいですね」と支配人の伊藤貴弘さん。

▲大きな屋根の平屋建て

 館内に入ると、長い廊下が奥へ延びている。その途中途中に客室が独立して配置され、歩くたびに景色が変わる。建物の中に小さな町があるような造りだ。

 高い天井、吹き抜けの空間、黒く艶を帯びた木材。天井から下がる和紙の照明も忠治館時代から受け継がれている。

 館内には静かなジャズの音色。時折、どこかから「ワン」と犬の鳴き声が聞こえる。それもこの宿のBGMだ。

▲和紙の照明が天井から下がる。道しるべのよう

 宿泊客の97%が愛犬連れという。犬用の作務衣や犬用風呂を備えた客室があり、館内の要所にはリードを掛けるフックも設けられている。食事処では愛犬を足元に連れて食事を楽しめる。

 ただ、ここを「犬と泊まれる宿」とだけ紹介してしまうのは惜しい。

 全14室というプライベート感、赤城山の自然。さらに、料理もこの宿を印象づける大きな要素だ。

▲うにちゃん(6歳)=埼玉県新座市 。ご主人様とお揃いの作務衣を着て、館内をお散歩

畳の部屋と滝を望む温泉

 客室は畳敷きにセミダブルベッドを組み合わせた和モダンの空間だ。マットレスはサータ製。適度な弾力があり、これはぐっすり眠れそう。

▲体が喜ぶマットレス。天井には太い梁

 夕食前にひとっ風呂と、露天風呂へ向かった。目の前には新緑が広がり、川と滝を望む。ザーッという水音を聞きながら、長湯をしたくなる。

▲奥が開けた露天風呂。自然の中にいるよう

 温泉はカルシウム、マグネシウム、ナトリウムを含む炭酸水素塩温泉。やや黄色味を帯び、とろりとまとわりつくような湯だ。「翌日は肌がつるつるになりますよ」と伊藤支配人。

 露天風呂はややぬるめ。大浴場は熱めで、最後にしっかり体を温めた。

▲タイル張りの大浴場は、夜と朝で男湯と女湯が入れ替えに

ホーホケキョの朝

 翌朝はウグイスの声で目が覚めた。障子越しにやわらかな朝の光が差し込んでいる。 窓を開けると、ドッグランで小さな犬たちが駆け回っていた。何ともほほ笑ましい光景だ。

 そして、朝食も予想通りの充実ぶりだった。

▲朝の庭。緑がまぶしい

 チェックアウトのフロントで、「わあ、かわいい」と声が上がった。愛犬の誕生日記念に、スタッフから缶バッジを贈られたという。若いスタッフが多く、サービス精神も旺盛。

 心地よいもてなしと、赤城の自然に癒やされた一夜だった。そして改めて思う。忠治館の建物が、このような形で再生されてよかった、と。

▲風太君(6歳)=横浜市 。玄関の撮影スポットで、ぐんまちゃんと一緒に記念写真を撮ったよ

▲この長い廊下の記憶はいつまでも忘れないだろう

【食いしん坊編集長コラム】

赤城山麓の食材を豊富に

 食事は畳の間で。希望する時間を15分刻みで指定できるのはうれしい。

 テーブル席はすべて半個室。ワンちゃんはみな躾がよく、吠えたり歩き回ったりすることはない。

 夕食は季節ごとに変わる会席。鮎押し寿司など5種類の前菜に続いて、口の中を清める小吸物が置かれた。具は玉子豆腐とジュンサイ。薄味のすまし汁ながら、出汁の風味をしっかり感じられる。

▲前菜五種盛り合わせ

お造りは鮎、月夜野鱒

 さあ、ここからが本番。お造りが並べられた。鮎の細造りに月夜野鱒。ここは山の中、海の幸は使わない。鮎は爽やかな香り。鱒はくせがなく旨みが強い。手の込んだ鱒の銀皮の煮凝りに意表を突かれた。

▲鮎細造り、月夜野鱒

 煮物にやまと豚、強肴には赤城牛と赤城山麓の良質な食材が使われる。野菜も多くは地野菜。最高の地産地消を楽しめる。

 小鍋立ては鱧すき。焼いた中骨で出汁を取った醤油ベースの汁に浸していただく。梅肉で食べる「落とし」よりも鱧の旨みを十分堪能できそうだ。

▲強肴は赤城牛コールドビーフ

▲鱧すきに地野菜、肉厚豆腐を添えて

 留鉢に鱒と長芋のタルタルをいただき、食事は新生姜とキノコの炊き込みご飯。赤だしの出汁がまたいい。

 デザートをいただいていると、料理長の田山敦詞さんが挨拶に来てくれた。関西で長く修業したという。出汁の旨さ、鱧を使った理由に合点がいった。

▲料理長の田山敦詞さん

赤城山ゆかりの酒を

 食事だけでなく、酒も赤城山の恵みを満喫できる。

 乾杯のビール、サントリーのザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリームは赤城山系の地下水を使い群馬県千代田町の工場で製造される。

 日本酒は近藤酒造のその名も「赤城山」。淡麗、辛口のキリッとした酒は料理によく合う。

▲この日は純米吟醸の赤城山を合わせた

 焼酎も「赤城の恵」がある。赤城南麓で栽培されたサツマイモを原料にした本格焼酎。甘みと香ばしさのバランスがよく、食中酒として合わせやすい。

 ワイン党には昭和造園の「Nanroku」を。赤城南麓で栽培したブドウで醸造した地ワイン。ワインコンクールでも高く評価されている。

 食後酒は「赤城のウィスキーハイボール」がお薦め。日本酒の蔵元・聖酒造が赤城山伏流水で調整したまろやかなウイスキー。ソーダで割って、料理の余韻を楽しみたい。

店舗情報

赤城山-懐- futokoro

お問合せはこちら
027-284-0015(10時~17時)
住所 前橋市苗ヶ島町2036
ホームページ https://akagi-futokoro.com/