interview
聞きたい
【聞きたい 藤巻亮太さん▶1】
初めての曲作り 前橋工科大軽音楽部で
2025.04.30
曲を作ることで魂が救われた――。前橋工科大在学中に結成したレミオロメン。「粉雪」「3月9日」、フジテレビ系北京オリンピック中継テーマソング「もっと遠くへ」。次々とヒット曲を生み出し、優しい響きで歌い上げる。初めての曲作りは大学1年のときだった。
(取材/阿部奈穂子、撮影/志賀俊祐)
儚い、だから大切にしたい
――3月にリリースされたニューアルバム「儚く脆いもの」の聴きどころを教えてください。
歌詞のテーマは別れを扱っている楽曲もあるんですが、全体的に、口ずさめるようなポップで聴きやすい曲を意識しました。
僕も、周りの大切な人たちも、日々変わります。1日、1週間、1か月、1年、5年、10年と、移りゆく存在です。そういう変わりゆく存在の僕たちが出会って、同じときを過ごせることは、かけがえのないこと。そして儚く脆いものです。そんな奇跡的な出会いや、共に過ごした時間に感謝の思いを込めながら作った作品です。
――ジャケットの写真も自ら、お撮りになったそうですね。
はい。ジャケットは湖面に映っている森の写真です。反射している感じが、何とも言えない揺らぎで、アルバムの「儚く脆いもの」というタイトルとぴったり合うような気がしました。普段、作品のために写真を撮ることはあまりないんですが、今回タイトルが決まって、10曲が揃ったときに、自分なりに今まで撮ってきた写真を見返して、この写真を使いたいと思ったんです。
――写真がご趣味なんですね。いつ頃から撮り始めたのですか?
レミオロメンを結成して10年目に、全都道府県ツアーというのがあって、47都道府県をライブで回ったんですけれど…。各地の街の写真を撮って、ライブの演出で使うことになり、そのときから撮り始めました。
▲ニューアルバム「儚く脆いもの」
劣等感から解き放たれた
――前橋との関わりについてお聞きします。前橋工科大に進まれたのはなぜなのでしょう。
元々は建築を勉強したかったのですが、建築の学科はすべて落ちてしまい、前橋工科大の土木科には合格したんです。浪人するのも親に申し訳ないし、学びながら少しでも前に進んでいこうと思って前橋に来ました。
でも、受験の達成感というのはあまり感じられなかったし、自分が18歳ぐらいまで生きてきた人生が、全部中途半端だったみたいな気持ちになって。大学1、2年生のころは、心の中に劣等感が渦巻いていました。
――初めての前橋の印象は?
やっぱり風が強いなというのが第一印象。 僕は山梨の盆地の山の方に住んでいて、周りが桃畑や葡萄畑しかなかったんで、前橋は平地だと思いました。
――大学では軽音楽部に入部されました。
軽音部で仲間ができて、一緒に「LINE(ライン)」っていうバンドを組みました。そこで初めて曲を作ったんです。
――どんな曲ですか?
「コンクリート」というタイトルです。タイトルだけだと、まさに土木科一直線みたいな…(笑)。歌詞の内容は一人旅をして寂しいなみたいな曲でした。全然、タイトルとは関係ないんですけれど。
――今回、リリースされたアルバムは「儚く脆いもの」で、初めて作ったのが「コンクリート」。何か、対局線上にある気がします。
コンクリートは「硬くて強いもの」ですもんね。だから25、26年経つと、やっぱり僕の人生観も変わっていきます。コンクリートみたいな硬いところから始まって、いまは移ろいゆくものを、歌えるようになったのかなとしみじみ思いますね(笑)。
――どんな気持ちで初めての曲作りをされたのでしょう?
劣等感って、自分に刃のように向く気持ちじゃないですか。 自分を否定してしまうような…。 苦しいわけですよ。でも、初めて曲を作ったときに、自分の中のモヤモヤとしたもの、絡まってる糸みたいなものがスルスルとほどけていったんです。あんなにネガティブだった気持ちが、何かわからないけれど気持ちのいいものになって外に向かって音楽として出ていった。
要は表現して救われたんだと思うんです。 曲を作ることで自分の中に渦巻いていたものが、整理されて音楽として出ていく。 当時は何もないところから何かが生まれたという感動もありました。
――そこから曲作りに目覚めたのですね。
とにかく楽しくて、曲作りで自分の人生が変わりました。大学時代は前橋駅の近くにあった1DKのアパートに住んでいたのですが、そこで曲を作りまくっていました。 人間っていろんな感情があって、喜怒哀楽という4つだけじゃない。その分類できないような思いに、音楽は届くような気がしたんですよね。
ふじまき・りょうた
1980年生まれ。山梨県笛吹市出身。前橋工科大学卒。2000年、レミオロメンを結成し、2003年、メジャーデビュー。2012年2月、ソロ活動を開始。2018年から山梨・山中湖交流プラザきららで野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI(マウントフジマキ)」を主催。3月26日、5thアルバム「儚く脆いもの」をリリース。


