interview
聞きたい
【聞きたい みうらじゅんさん▶2】
「心の上司」糸井さん
2024.10.29
糸井重里さんに指名されて「前橋BOOK FES」のスペシャルサポーターとなったみうらじゅんさん。2人の付き合いが45年以上に及ぶとか。イジられながらも「心の上司」と尊敬します。2人の関係は…。
ファクス事件の真相
―糸井さんを「心の上司」と尊敬しています。いつからのお付き合いですか。
もう、45年以上になりますかね。美大に通っていたころですから、まだ漫画家でデビューもしてません。単なる学生。そんなころから糸井さんの事務所に勝手に通っていましたね。
デビュー作は「ガロ」って特殊な漫画雑誌に掲載してもらったんですけど、一番特殊な点はギャラが出なかったこと。掲載されたときはうれしかったけど、お金もらっていないのだから、それじゃ、趣味じゃないかと(笑)。
だから、正確にはデビューしていないんですよね。だから、アマチュアみたいな気持ちでまだドキドキしながらやっているわけで。それは、デビューしていないからだと思うんですよね。
―糸井さんからはよくイジられている感じですが。
まあ、「じょうもうくん」の件じゃないけど、よく、イジられてきました(笑)。
―ピュアなんでしょうか。
糸井さんの事務所にファックスが入ったとき、まだ、ファックスって機械を知らなくて、番号にかけたら、変な音が聞こえてきたのですよ。ひょっとしたら、僕がしゃべったことを向こうで自動的に文字にする機械なんじゃないかと思って、何度かかけたわけですよ。夜中にも結構、面白いことを思いついたときや歌まで歌ったこともあります。
そうしたら、糸井さんが「お前、うちのファックスにいたずらしていないか?」っておっしゃる。僕、そのとき、ようやく初めてファックスの意味が分かったんです。
それからしばらくして、糸井さんが「お前さ、しつこいよ」って、ファックスのいたずらを疑ってきたもんで「僕じゃありませんよ」って言ったんです。すると、数日後、犯人が分かったんです。篠原勝之さん(クマさん)だった(笑)。
「七年殺し」のアドバイス
―ネタのようですね。何だか情景が浮かびます。
糸井さんにはアドバイスもいっぱいしてもらいました。漫画描くのが大変なので文章ばかり書くようになったら、「簡単なことばかりやり始めるとね、ダメになるよ」って。そのときはよく分からなかったけど、いまになったらその意味がよく分かる。
「ビックリハウス」という雑誌で連載をもらったとき、糸井さんは勝手に連載内容を決めたんですよ(笑)。何かと言うと、「間違い探し」でした。「コピーしちゃ、駄目だよ。上下に同じ絵をそっくりに描くんだよ。そして、下の絵に間違いを3つか4つ入れなさい」と指示されました。
間違い探しの1回目の設定は運動会でした。編集長でもないのに糸井さん。まあ、絵は上下が同じように上手く描けていなくて、読者からは「いっぱい間違いがある」って言われましたが。
―なぜ、そんな細かいことをさせたのでしょう。
こいつは慣れてくると手を抜くだろうから、びっしり絵を描かせたんでしょうね。でも、僕は糸井さんが言ったことを説教と思ったことは一度もありません。全部アドバイス。だって、それは確実に空手の「七年殺し」のように後から効いてくるんですから。
―「人生の上司」と言われるゆえんですね。
そもそもビックリハウスの最初の仕事も糸井さんからのアドバイスからです。「とりあえず、編集部に毎日通いな」って言われて、言われた通り、意味もなく、毎日、編集部の端の方に座っていたんですよ。
ある日、ある漫画家の先生の原稿が落ちて、「みうら君、どうにか今日中に4ページ描けないかな?」と編集長から言われて、「単になんぎなうし」という漫画を描きました。そうしたら、それが読者の人気投票で2位になって、ファンレターもいっぱいきました。
でもね、その中にやけに達筆な手紙があって、「みうら先生の漫画、すごい面白かったから連載してください」と書いてある。中学生なのに最後に「敬具」って。字に見覚えがあって、さっそく、実家に電話したら父親が「わしじゃ」と(笑)。涙が出そうになりました。その後、連載につながるんです。
※【聞きたい みうらじゅんさん▶1】はこちらから。
マイブーム、ゆるキャラ…
みうら・じゅん 1958年、京都市生まれ。武蔵野美術大造形学部卒。漫画家、エッセイスト、小説家、ザシタレ、ミュージシャンなど幅広い分野で活躍、職業は「イラストレーターなど」と公表している。「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。「ゆるキャラ」の名付け親でもある。