interview
聞きたい
最果タヒさんの『恋と誤解された夕焼け』
第32回萩原朔太郎賞決まる
2024.09.06
現代詩を対象にした「第32回萩原朔太郎賞」は最果タヒ(さいはて・たひ)さんの『恋と誤解された夕焼け』(新潮社)に決まった。9月6日に選考委員会が開かれ、候補作に推薦された6作から選ばれた。最果さんは「誰かが見つめる星の光になりうる言葉が、詩だと信じている。詩を読んでくださる方、昔読んで一文を今も覚えてくださっている方、これまで作品と出会ってくださったすべての方、ありがとうございます。これからも書いていきます」と喜びのコメントを寄せた。
インターネット上でも詩作
最果さんはインターネット上で詩作を始め、中原中也賞や現代詩手帖賞などを受賞している。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は石井裕也監督により映画化。詩だけでなく、小説やエッセイ、絵本など幅広い分野で活躍している。
朔太郎賞には2015年、2019年にも候補作品に選ばれ、三度目の正直で受賞となった。
受賞作の『恋と誤解された夕焼け』は2024年5月30日発刊。43篇の詩が96㌻に収められている。「好きだと思う瞬間、流れ星になる」「心音とともに心臓が歩いている宇宙の果てへの野の径を」など、生命と世界の光と影を照らし出す詩で構成されている。
詩はネットに投稿したものは横書き、雑誌や新聞に掲載されたものは縦書きにしている。
読みやすい詩の「総集編」
選考過程と選評にあたった選考委員の詩人、佐々木幹朗さんは「巧みな仕掛けが詩の中にある。いままでの詩作の中で総集編と言っていいくらい、実験してきたことが詰まっている。18、19歳向けとの否定的な意見もあったが。もっと一般に向かって言葉を投げかけている」と評価。「作詞家の世界に接近している」とも意見もあった。
小川晶市長は「心からお祝いするとともに、受賞を機にますますご活躍されるよう祈念します」と激励した。
11月2日に朔太郎賞贈呈式
萩原朔太郎賞は日本近代詩に大きな功績を残した前橋市出身の詩人、萩原朔太郎の業績を顕彰するとともに、近代詩の発展に寄与することを目的として、市制施行100周年の1993年に制定した。第1回の谷川俊太郎さん以来、これまで31人が受賞している。
主催は前橋市と萩原朔太郎賞の会。東和銀行が協賛している。
今回は昨年8月1日から1年間に発表された作品を対象に選考、4月から8月にかけて3回の推薦委員会が開かれ、最終候補作を絞った。
最果さんには正賞としてブロンズの萩原朔太郎像と副賞100万円が贈られる。贈呈式は11月2日、前橋文学館で開かれる。
最果さんのコメント全文は次の通り。
孤独はただの空虚なものではないと思う。何もかもが空っぽの、そんな時間や心ではなくて、自分にしか見えない星が一つ、夜空に見えるようなことだ。
その星は誰にも見えないのかもしれない。本当にその光がそこにあると自分に証明する術もない。
けれど、真っすぐに信じていて、信じている間、自分はもしかしたら誰にも「すべて」を理解してはもらえないのかもしれないが、そうやって自分だけが知っている光がある限り、その光に誓うように、夢を見ることも、誰かを愛することも、自分自身を見捨てずに生き抜くこともできるだろう。
孤独とはそんな星のある空のことだと、私は思う。思いたいです。
誰かが見つめる星の光になりうる言葉が、詩だと信じている。詩を読んでくださる方、昔読んで一文を今も覚えてくださっている方、これまで作品と出会ってくださったすべての方、ありがとうございます。これからも書いていきます
詩、エッセイ、小説、絵本でも活躍
最果タヒ(さいはて・たひ)1986年、兵庫県生まれ。「現代詩手帖」の新人作品欄に投稿、現代詩手帖賞を受賞する。詩集『グッドモーニング』で中原中也賞、『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞。『夜空はいつでも最高密度の青空だ』は映画化された。詩の言葉で現代語訳した『千年後の百人一首』(共著)、案内エッセイ『百人一首という感情』、小説『星か獣になる季節』、エッセイ『きみの言い訳は最高の芸術』、絵本『ここは』など幅広い分野に著書がある。