interview

聞きたい

【聞きたい 葉一さん▶1】
教え子は全国に190万人の先生

2023.08.08

【聞きたい 葉一さん▶1】 
教え子は全国に190万人の先生

親の所得が少ないと塾に通えず希望する学校に入れない—。そんな負のスパイラルを解消しようと、YouTubeで小、中、高校生を相手に授業動画を無料配信している教育You Tuber葉一(はいち)さん。教え子は全国に190万人います。

教科書の内容 動画で配信

―You Tube「とある男が授業をしてみた」はどんな番組ですか?

小学生、中学生、高校生向けの授業動画です。教科書をベースに制作します。中1の数学だけで約90本。1本当たり10分くらいのボリュームで教科書を網羅するように作っています。教科書の内容を繰り返し、無料で見ることができます。

不登校の子が動画で勉強しテストを受けたらいい成績を取った。それが自信になり、学校に通えるようになったと保護者からお礼の連絡をもらったこともあります。

 

―対面での授業と違い、You Tubeは一方通行です。理解しているか表情で読み取れませんね。

そうですね。そのために授業はいろいろと工夫しています。まず、雑談を一切しないこと。動画は分かるまで繰り返し見てもらうことが多いので余計なものは省きます。

それと、対象学年に合わせて言葉を選びます。授業とは関係ない難しい言葉で疑問を抱かせたくはないので。また、文字もスマホの画面で読みやすいサイズにしています。

―活動を始めた動機を教えてください。

所得格差が教育機会の格差に直結している現状を『しょうがない』で済ませたくなかったのです。

私は学習塾に行ったことがなかったのですが、塾の講師になって初めて月謝を知り、『こんなに高いのか』と驚きました。子供を塾に通わせたくても通わせられない家庭も当然あります。親の所得で学習環境に差が付いてしまう。どうしたら子供からお金をもらわずに授業ができるだろうかと考えていて、You Tubeに行きつきました。

学校などの公教育、塾や家庭教師に加え、子供の意思で自由にアクセスでき、無料で勉強できるフリーラーニングを学びの3本柱の一つにしたいと願っています。

子供の口コミで広がる

―活動を始めたのはいつですか。

2012年6月に配信を始めました。開始当初は誹謗中傷もありました。You Tube自体の社会的認知度も低く、『聖域である教育を持ち込むな』とか、無料で授業をするので『塾の営業妨害をするな』と抗議されたこともありました。

子供たちはスマホで授業を受けるわけで、ずっとスマホを見ることになります。すると、親から『いつまでスマホをいじっているの』と怒られたなんて、いう話はいま以上に多かったですね。

―視聴者が少ないとマネタイズできませんね。

27歳で始め、貯金を切り崩して生活していました。30歳までに形にならなければ辞めようと考えていましたが、2、3年で浸透してきて、視聴者が増えてきました。『役に立ちました』とか『テストでいい点を取れました』なんて声も届き、『この道は間違っていないな』と確信しました。

―いまではチャンネル登録者が190万人という人気チャンネルになりました。

コロナ禍で休校になったことで保護者や先生にも注目してもらえました。

最初は子供の口コミだけで広がっていたのが、ママ友が紹介してくれたり、校長先生が朝礼で『こんな授業動画がありますよ』と話してくれたこともあります。

はいち

1985年3月生まれ。館林高-東京学芸大教育学部卒。教材販売会社で営業職に就いた後、埼玉県内の個別指導の塾講師に。2012年6月から授業動画の配信を開始。「とある男が授業をしてみた」は登録者190万人、総再生回数6・5億回に達する。