interview
聞きたい
【聞きたい宮田裕章さん3▶︎】
めぶくIDで「笑顔」広げよう
2023.02.08
めぶくIDを「概念としては素晴らしい」と高く評価する一方、普及には「使って生まれる笑顔」がカギを握ると予測する宮田裕章さん。BOOK FESのような楽しい仕掛けが求められそうです。
デジタルで認知症改善
―デジタルは医療やヘルスケアの分野でも活躍が期待されていますね。
いままでは病気になり進行したところから医療の役割が始まりました。手前からの医療もあるにはあったが、ほとんど治療にフォーカスされていた。
例えば認知症一つとっても、中途以上に進行すると、治す薬はない。今後少なくとも15年はその状況は続きます。
例えば介護予防でフレイル(虚弱)という概念があります。健康な状態と要介護状態の中間を差す言葉です。
医学的なエビデンスでは歩行速度が秒速0.8㍍を切ると、認知症は一気に進むことが分かっています、出歩くことができなくなり、そこからの改善は難しい。
もっと手前から、歩く速度が遅くなってきたところで改善することができれば、より少ない努力で改善できるでしょう。
―データを活用したデジタルの意義は分かりますが、一方で個人データが漏洩しないか、不安感や不信感を持つ人も多い。マイナンバーの普及率が伸びないのもそこに理由がありそうです。
マイナンバーは何で取得しなければならないのかがあまり理解されていなかった。取得率は行政の目標です。大事なのはそれを取得して何ができるか、イメージを共有すること。市民の立場としては、みんなが持っているとかより、持っていて役に立つかが大事なんです。もっていたら便利なのをどんどん作っていくしかないんです。
ご指摘の通り不安や不信はあるでしょう。でも、そもそも絶対大丈夫なセキュリティーは世の中にない。便利さとのバランスなんです。
クレジットカードが何でこれほどまでに普及したか。便利だからです。グーグルを使うのも漏洩対策が完全ではないことを理解しながらも、使って楽しいからです。
セキュリティーの努力も一定以上する必要はあるが、それ以上に利便性を向上させることが重要。それを使うとよいことがあることを、めぶくIDも含めて広げていかなければならなりません。
目に見える豊かさが必要
―急速に普及させる方法はありますか。
中国の企業が電子マネーを普及させたときの伝説的なキャンペーンが参考になるかもしれません。お年玉を電子マネーで配ると、お孫さんにWポイントを付けますよというプレミアです。孫から「この電子マネーにして」と御願いされて利用する人が続出して、1カ月で数億人が登録しました。「孫の笑顔がみえる」というキャンペーンです。
将来よくよく役に立つというのも大事ですけど、具体的に何が得なのかが直接響きますね。
マイナンバーでいえば、登録していれば給付金の申請がいらないということまですべきだった。銀行口座と紐づいていればよかったですね。
めぶくIDは概念としては素晴らしい。どう使うと楽しくなるか。これからです。BOOK FESのように、豊かな体験をどれだけ使えるか、これにかかってくるんじゃないですかね。
使って生まれる笑顔がないと広がらない。使って生まれるコミュニティーだったり、新たなビジネスだったり。目に見えた豊かさが求められます。
みやた・ひろあき
1978年生まれ。東京大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。保健学博士。専門はデータサイエンス、科学方法論。慶應義塾大医学部医療政策・管理学教室教授。2025年の日本国際博覧会(万博)テーマ事業プロデューサーを務める。