純手打そば処 甚兵衛
田舎蕎麦に愛を込めて

　産業通り沿いのマンションの１階に行列のできる人気のラーメン店が２軒あります。同じ１階にある、こちらは時間がゆっくりと流れています。

　曜日変わりの弁当の裏メニュー、野菜天丼弁当を注文しました。すると、「嫌いな野菜はありますか」と女手一つで店を切り盛りする志田正子さんが優しく尋ねてくれます。「いえ、好き嫌いはありません」。そう、答えるしかないでしょう。

　塔のように高くそびえる天丼。半分くらいのもり蕎麦、サラダ、小鉢と漬物が付いてきます。

　まずは、蕎麦から。田舎のおばあちゃんが打つ蕎麦のようです。太めで短め。色黒で硬め。啜るのではなく、よく噛みます。でも、これがいいんです。

　テーブルにはあらかじめネギ、大根おろしとワカメが用意され、配膳と共にワサビを持ってきてくれます。こんな心配りもうれしいですね。

　蕎麦を平らげたら、天丼を攻略しましょう。シュンギク、ナス、ピーマン、シメジ、サツマイモにチクワが加わり６種類。どれもからっと揚がり、ゴマ油の香ばしさを感じます。

　タレはちょうどよい甘じょぱさ。丼飯の中ほどにも掛かっていて最後まで美味しくいただけます。

　サラダはカニカマボコ入り。キュウリの酢の物の小鉢にはミョウガも添えられ、夏の名残りを感じます。

　暖簾を掲げて37年。17年前にご主人を亡くしてから、正子さんが跡を継いでいます。

　もり蕎麦と揚げたての野菜天ぷら１個で530円という安さ。どの品も１度も値上げしていません。「主人が絶対値上げしないって言っていたので、私も守っているの」。きっと仲良し夫婦だったでしょう。