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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.45】コンビニはシネマパラダイス

2025.05.13

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.45】コンビニはシネマパラダイス

 近所に歩いて行けるコンビニが3軒ある。

 しかし、大抵は1番遠くにある店に足が向いてしまう。

 理由は簡単。買い物の前に撮影したいからだ。特に夕方から夜のコンビニは絵になるから好きだ。都会のコンビニのように、行き場のない若者の溜まり場になっていないのがいい。ひっそりと、しかし、優しく誰をも迎えてくれるような佇まい。周囲を明るく照らしているさまがなんとも暖かみを感じる。時々、1人タバコを隅の方でふかしている老人が居たりして、まるで映画のワンシーンなのだ。そう、撮影したくなる光景は全て映画を想起させるのだ。

 どんなに美しい風景であっても、どんなに迫力ある自然であっても、熱心に撮影する気が湧いてこない。物語の背景、映画のような風景。それだけが好きなのだ。夜のコンビニには、きっと沢山の物語が詰まっていて、読み手をじっと待っているに違いないのだ。

 

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。