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萩原朔美さんの映像公開
香港の現代美術館「M+」
2026.06.23
前橋文学館特別館長、萩原朔美さんが1972年に制作した映像作品『KIRI』が香港にあるアジア最大級の現代ビジュアルカルチャー美術館「M+」の企画展で上映されている。ロサンゼルスカウンティ美術館(LACMA)にも収蔵されることが決まり、半世紀以上の時を経て世界で再評価されている。
霧が突然晴れる実験映画
KIRIは16㍉フィルムで撮影した8分間のモノクロ。一面の深い霧が晴れ始め、奥の山並みが見えてくる幻想的な映像が流れる。音声はない。前衛的な実験映画の黎明期を代表する作品の一つとされている。
撮影は那須の山中で行われた。濃霧でまったく視界が開けない中だった。
「カメラマンが映像の世界で『3時のばかっ晴れ』という言葉がある。3時になれば霧が晴れると言い出したので、しばらく待つことにした。3時少し前に撮影を始めたが、当時はフィルムが高くて一発勝負。ひやひやしたけど、奇跡的に晴れてくれた」。萩原さんは鮮明に記憶していた。
▲KIRIの1場面
寺山修司さんが主宰した「天井桟敷」を退団、精力的に実験映画を制作していた20代だった。
1975年に雑誌『ビックリハウス』を創刊、渋谷系サブカルチャー文化を牽引するようになり、次第と映像の世界から遠のくようになった。
「それでも映像が好きで、勤務した多摩美(多摩美術大学)では最初は芸術学科だったが、お願いして映像演劇学科を教えることになった」。ゼミの教え子の一人が映像や写真を手掛ける石原康臣さん。KIRIは石原さんがフィルムを保存、デジタル化した。
▲映像の魅力を語る萩原さん
香港のM+では山水画の展示室で上映されている。霧の濃淡とグレートーンの変化によって山の輪郭や枝のシルエットが少しずつ現れてくる構造が山水画と重ねられ、「動く山水画」としてとらえられている。
展示は2024年に始まり2027年まで。
ロスの美術館にも収蔵
ロスのLACMAは米国西海岸で最大級の総合美術館。M+の展示を見て興味を持った前橋市出身の学芸員からオファーがあり、収蔵委員会の審議を経て収蔵が決まった。
KIRIとともに、机の上に置いたリンゴを365日撮影した写真を映像化した萩原さんの最初の映像作品『TIME』と写真3点、KIRIの版画が収蔵される。
▲▼1953年と1974年に同じポーズで撮影した萩原家の写真
▲1969年と2015年に渋谷で撮影した写真
▲20代と60代のセルフフォト
再評価の動きについて、萩原さんは「うれしいよね。70年代の自分の映像や写真が海外でも注目されるのは。また映像を撮ろうと思う気になる」と歓迎、すでに廃校を舞台にした新作の準備に取り掛かっていることを明らかにした。
萩原さんの作品は国内では、世田谷美術館に現存する版画、写真、映像作品などほぼすべての作品を所蔵しているのをはじめ、東京都現代美術館、栃木県立美術館、新潟県立美術館、大阪中之島美術館などにある。


