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ピアニスト、美術家の向井山朋子 
24日から前橋で大規模個展

2026.01.23

ピアニスト、美術家の向井山朋子 
24日から前橋で大規模個展

 世界を舞台に活動するピアニスト、美術家の向井山朋子さんによる大規模個展「Act of Fire」が、1月24日からアーツ前橋で始まる。美術館での個展としては初の規模となる本展は、館内6つのギャラリーを回廊状に用い、音楽、映像、インスタレーションを横断する構成。津波で破壊されたピアノや、血で染めたドレス、燃え上がる映像などを通して、個人の記憶と世界の痛みを重ね合わせる。

津波で破壊されたグランドピアノ

 向井山さんは音楽の枠を越え、映像やパフォーマンス、インスタレーションを通じて表現の幅を広げてきた。「Act of Fire」はアーツ前橋の6つのギャラリーを回廊状につなぎ、彼女の身体と記憶、そして世界との関係を描く。鑑賞者は展示室を巡りながら、時間や視点の切り替わりを身体で受け止めることになる。

▲アーツ前橋「向井山朋子-Act-of-Fire」展 キーヴィジュアル

 展示の起点となるギャラリー1・2では、2011年の東日本大震災で津波のため破壊された2台のグランドピアノが提示される。宮城県石巻市渡波地区で見つかったピアノは、泥や瓦礫の痕跡を残した姿で配置され、災害によって断ち切られた日常や沈黙を生々しく伝える。

 地上階と地下階を吹き抜けで結ぶ構成は、記憶が一層ずつ積み重なっていく感覚を強く印象づける。

▲《KOKOKARA》2025年 ©Tomoko Mukaiyama

炎が照らし出す個人と世界の接点

 回廊の外周にあたるギャラリー3・4では、向井山さんの代表作《wasted》を再構成。経血で染められたドレスや靴、写真、家具などが通路状の空間に点在し、女性の身体や人生に刻まれた痛みと喪失が、個人的体験にとどまらず社会的な問題として立ち上がる。

▲《wasted》2009年 photo Rachel Nieborg. ©Tomoko Mukaiyama 

 展示の終盤、ギャラリー5・6では、燃え上がるピアノの映像を中心とした大空間が現れる。昨年7月、向井山さんが期間限定で無料配信した映像詩《ここから》に登場するこのピアノは、音楽と炎が重なり合う象徴的なモチーフだ。

 蚊帳を縫い合わせた幕に囲まれた空間に、火のクローズアップ映像が重ねて投影され、鑑賞者は炎に包み込まれるような感覚に導かれる。

▲《火を燃やす-1》2025年 ©Tomoko Mukaiyama

 火はピアノから立ち上がるだけではない。そこには、パレスチナ・ガザ地区の戦火や、向井山の故郷・和歌山県新宮市に伝わる御燈りの記憶が重ねられている。炎は個人の感情にとどまらず、現実の世界にある痛みを映し出している。

▲《KOKOKARA》2025年 ©Tomoko Mukaiyama

向井山朋子「Act of Fire」
会期:1月24日(土)~3月22日(日)
会場:アーツ前橋(前橋市千代田町5丁目1-16)
開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
休館日:水曜(2月11日は開館、翌12日休館)
観覧料:一般1,000円、学生・65歳以上800円、高校生以下無料

むかいやま・ともこ

オランダ、アムステルダム在住のピアニスト/美術家。1991年国際ガウデアムス演奏家コンクールで日本人ピアニストとして初めて優勝、村松賞受賞。女性性を核に、身体性、セクシュアリティ、境界、記憶、儀式、自然、時空など異なるテーマを横断し、従来の形式にとらわれない舞台芸術やインスタレーション、映像作品を発表。ニューヨーク・リンカーンセンター、パリ・オペラ座などの劇場から、美術館、個人宅、公共空間、時には瀬戸内海の島の魚市場までオンラインを含めた、ありとあらゆる空間をプラットフォームとする。2007年、向井山朋子ファンデーションをオランダに設立、2015年には日本で一般社団法人◯+(マルタス)を設立し、プロデュースの分野でも活躍。音楽、美術、映画、ファッション、ダンス、写真など幅広い分野で独創性を発揮している。