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ブルーボーイ事件 公開3日の衝撃
前橋で起きた異例の動き、全国で広がる反響

2025.11.18

ブルーボーイ事件 公開3日の衝撃
前橋で起きた異例の動き、全国で広がる反響

 11月14日に全国公開された映画『ブルーボーイ事件』が、異例の盛り上がりを見せている。レビューサイトFilmarksでは初日満足度★4.07で1位を獲得。ロケ地の8割を担った前橋では、翌15日の上映開始から3日間で約400人が前橋シネマハウスに押し寄せ、ロケ地を歩くファンの姿も一気に増えた。なぜここまで火がついたのか。前橋で起きている“現象”を追った。
(取材/阿部奈穂子)

前橋シネマハウスで3日間約400人

 「事前の問い合わせが少なく、不安もありました。でも今思えば、それは“情報が十分に行きわたっていた証拠”でした」。前橋シネマハウス支配人、日沼大樹さんは公開直前をこう振り返る。

 同館での上映は、全国公開より1日遅い11月15日に始まった。ところが、いざ初日を開けてみると劇場側の想定を大きく超える動きになった。

 

▲「異例続きだった」と話す日沼支配人

 公開初日は3回上映。「この3回で、劇場がいつも2週間かけて積み上げる1作品分の観客数が入ってしまった感覚です」。公開2日目の16日10時の回では、飯塚花笑監督による舞台挨拶を実施。客席116席がすべて埋まり、入場できない観客が出るほどだった。  

 15日・16日の週末に加え、17日(月)を含む3日間で約400人が来場。前橋のミニシアターとしては異例の立ち上がりとなった。

▲群馬県庁内Gフェイスカフェでのロケ風景

 観客層の広さも異例だった。

「LGBTQやジェンダーを扱う作品は若い世代に偏る傾向がありますが、今回は20代からシニアまで均等に入っています。常識を覆す入り方です」と日沼支配人。

 弁護士・狩野役を演じた錦戸亮さんを“目当て”に来たという若い女性は「映画そのものが最高でした。もう一度観に来ます」と話した。作品自体の強さが観客層を押し広げている。

▲錦戸亮さんの熱演も光る

初日満足度ランキング1位

 全国では公開初日から感想投稿が相次いだ。映画レビューサイトFilmarksの「11月第2週公開映画・初日満足度ランキング」では★4.07で堂々の1位。

 Filmarksの初日ランキングは、公開直後の観客が最初に示す“温度”を可視化する指標として業界でも注目されている。

 評価★4.0を超える作品は多くなく、★4.07は“作品そのものの力が突き抜けている”ことを示す値と言える。

▲俳優は初めてというが、迫真の演技を見せた主演の中川未悠さん

 SNSでは「序盤から最後まで目が離せない」「当事者キャストの演技が圧巻」「昭和の再現度がすごい」「破壊力のあるセリフが刺さる」といった声が相次ぎ、映画評論家の伊藤さとり氏は「未来のための魂の叫び」と評している。

▲前橋まちなかのハウゼビルでもロケが行われた

都内舞台挨拶でも“前橋”連呼

 映画の勢いは都内にも波及している。15日に行われたTOHOシネマズ新宿での公開記念舞台挨拶では、満員の観客に向かい、登壇したキャストが“前橋での撮影”について次々と語った。

 前橋市出身の俳優・泰平さんは「前橋は性的マイノリティの一人として育った土地。いろんな思いがある。全編を群馬で撮影したこの作品に出演できたことは、かけがえのない経験になりました」と、故郷、前橋への思いをにじませた。

 ブルーボーイのアー子役を演じたイズミ・セクシーさんは「撮影後、前橋の居酒屋で語り合ったり、川へ行ったり、山奥にうどんを食べに行ったり…。みんなで“暮らすように”過ごしていた」と、前橋がチームの拠点となっていた日々を明かした。

▲アー子役、イズミ・セクシーさんの前橋の思い出も深い

街と映画が結びつき始めた

 前橋シネマハウスの公開2日目には、監督とともにロケ地巡りツアーを実施し約50人が参加。まちなかに長い列が出来、店先から「何の行列?」と声が上がるほどだった。

 劇場では、市が作成した「ブルーボーイ事件 前橋まちなか聖地巡礼マップ」を来場者に配布。ロケ地に加え、キャスト・スタッフが滞在中に訪れた飲食店まで掲載されており、「細かい場所までわかる」と好評だ。

 日沼支配人はこう話す。「初動がこれだけ強い作品は久しぶりです。現在は全国80館で公開され、100館規模まで拡大する見込みと飯塚監督も話しています。この勢いなら、一般の劇場にも広がりながら、ミニシアター系でも息長く上映されていくはずです」

 前橋で撮影された映画は、街の熱を伴って確かな広がりを見せている。公開3日間の数字は、そのムーブメントが始まったことを示している。