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【ルポ】映画『ブルーボーイ事件』の舞台裏を歩く
 前橋3カ所のパネル展会場を巡ってみた

2025.11.12

【ルポ】映画『ブルーボーイ事件』の舞台裏を歩く
 前橋3カ所のパネル展会場を巡ってみた

 11月14日公開の映画『ブルーボーイ事件』の世界を体感できるパネル展が12日、前橋市内3カ所で始まった。アクエル前橋TSUTAYA書店、本屋水紋、前橋市役所1階。それぞれ展示内容が異なり、映画の背景や撮影現場の空気を伝えている。公開を前に3会場を実際に歩いてみた。パネル展は12月3日まで。
(取材/阿部奈穂子)

市役所から始まるロケ地めぐり

 3会場を歩くと、映画の世界が街のあちこちに息づいているのがわかった。

 最初に訪れたのは前橋市役所1階ロビー。壁に沿って並ぶパネルには、映画撮影の様子や市内ロケ地をまとめたマップが掲示されていた。どの順番で巡るとよいかが一目でわかる。赤ちゃんを連れた女性が地図を見つめ、「上映が楽しみ」と話していたのが印象的だった。作品が地域に根づきはじめている。

▲新聞記事やロケ地マップなどを展示

映画の余韻を感じるTSUTAYA書店

 前橋駅北口のアクエル前橋1階、TSUTAYA書店に入ると、レジ横に「ブルーボーイ事件」コーナーが特設されていた。

 最初に目を奪われたのはガラスのショーケース。映画のロケ写真が並び、その中にひときわ異彩を放つ週刊誌があった。表紙には「暴かれる性転換手術」の文字。スタッフが「1965年当時の雑誌をイメージして作ったんですよ」と教えてくれた。映画に登場した“虚構の週刊誌”が目の前にある。その再現度と緊張感に感動した。

▲アイスキャンデーの旗はラストシーン、上電横丁のロケに登場

▲昭和の猥雑さを感じるこの週刊誌も映画に出てくる

 裏手には映画に何度も登場する証言台。スクリーンでは威圧感のある存在だったが、実物は思ったより小さく、脚が細くて繊細だ。光を受けた木目がやわらかく浮かび上がり、しばらく見入ってしまう。

 隣にはブルーボーイたちが働くバーのシンボルだった三日月のオブジェ。映画の時間が現実の中で静かに再生しているようだ。

▲主人公のサチやブルーボーイたちがたった証言台

▲劇中のバー「アダム」のシンボル、三日月のオブジェ

 展示の最後には、映画冒頭を漫画で再現したパネルが並んでいた。コマの中に登場人物の息づかいが見える。

 ここで、市役所で見かけた女性に再び出会った。自分たちと同じように、パネル展の会場を巡っているのだろう。映画をきっかけに、街の中に静かなつながりが生まれていると感じた。

▲冒頭20分間のコミカライズ版も展示

監督の声に出会える本屋水紋

 最後に向かったのは中央通りの本屋水紋。小規模ながら、ここでしか見られない撮影スチールや飯塚花笑監督のメッセージが掲示されていた。静かな店内に文字が浮かび上がり、作品の核心が伝わってくるようだった。ノベル版『ブルーボーイ事件』も販売中で、手に取れば映画と現実の距離がもう一歩近づく。

▲本屋水紋での展示。監督の想いが…

▲ノベライズ本を販売

映画『ブルーボーイ事件』とは

 1965年、日本で初めて行われた性別適合手術をめぐる裁判を題材にした映画。監督は前橋市出身の飯塚花笑。自身もトランスジェンダーの当事者として、偏見や誤解の中で生きた人々の姿を通し、「幸せとは何か」「自分らしく生きるとはどういうことか」を問いかける。撮影の8割を前橋市内で行い、現代に通じる人間の尊厳と希望を描いている。11月14日全国公開。前橋シネマハウスでは15日から上映。