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あの“ばばっかわ男”の正体は?
旧安田銀行担保倉庫で尾花賢一が明かす謎
2025.11.01
前橋・馬場川沿いのビルの屋上から釣竿を垂らす「ばばっかわ男」が、ついに“正体”を語りはじめた。旧安田銀行担保倉庫で作者の彫刻家、尾花賢一さんがスケッチや立体、言葉でその物語を描き出す。広瀬川と馬場川を舞台にしたアートフェス「River to River(リバリバ)」の企画として11月9日までの土日に公開中だ。この男はどこから来て、何を思っているのか──想像が動き出す。
(取材/阿部奈穂子)
思考の中を歩くよう
▲古い倉庫の中で謎は明かされる
展示空間には、尾花さんのドローイングと彫刻が点在し、奥行き35㍍ほどの倉庫全体が物語の舞台となっている。観る人は作品をひとつずつ読み込みながら、前橋を流れる川の記憶の中へと入り込んでいく。
床には川の流れを思わせる白黒の通路が走り、壁には水面の映像が映し出される。中央には釣竿を垂らす小さな白い男のオブジェが据えられている。
観客はその川縁を歩き、橋を渡るようにしてドローイングの断片をたどる。静かにたたずむ男の姿に、ばばっかわ男の“内側”を覗くような感覚が生まれる。
▲ドローイングや映像
作品タイトルは「川の話し」。前橋を貫く広瀬川の支流・馬場川(通称:ばばっかわ)に焦点を当て、かつて「坂東太郎」と呼ばれた暴れ川の記憶をたどる。
穏やかに見える今の川の底に、人々の営みや街の変化が積もっている。屋上で釣竿を垂らす“ばばっかわ男”は、そんな街の時間を見つめる存在だ。
尾花さんはその過去と現在を重ね、「彼がなぜそこにいて、何を考えているのかを想像してほしい」と語る。
▲思わず見入ってしまう人も
物語にはオチも答えもない。あえて断片のまま並べることで、作品と作品の間に余白が生まれ、観る人自身の記憶や感情が重なっていく。
「ページを捲り漫画を読み込むような作品経験を楽しんでほしい」と尾花さん。その流れの中で、屋上の“ばばっかわ男”が少しずつ別の表情を見せてくる。
▲ぜひ、ばばっかわ男を見てから会場へ
川とともに街を見つめ直す
この展示は、広瀬川と馬場川を舞台に街の記憶と現在をつなぐ「River to River 川のほとりのアートフェス」(通称リバリバ)の一環として開催されている。
今年で4回目を迎えるリバリバは、街歩きを通じてアートと出会う企画。
ほかにも、山形敦子さんによる地形と時間の痕跡を抽象化した平面と立体作品、菅原久誠さんによる都市と水辺を結ぶ映像などを展示する。
▲広瀬川美術館で行われている山形敦子さんの展示
▲map 前橋市民ギャラリーで展示されている菅原久誠さんの作品
前橋の中心街出身の林麻依子さんはya-ginsで新作を含む18 点の陶作品を発表し、11月2日14時から本人による解説ツアーを予定。
昨年亡くなった加藤アキラさんの追悼展も開かれる。
▲ya-ginsでは林麻依子さんの作品が観られる
▲Maebashi Worksでは「加藤アキラ追悼」展
ぐるりと展示を見終え外に出ると、馬場川の風が冷たい。見上げれば、屋上の“あの男”が釣竿を垂らしている。尾花さんの頭の中を覗いたあとは、以前とは違う見え方をするに違いない。
▲展示を通じて“あの男”が別人に見える
River to River 川のほとりのアートフェス 2025
会期:11月1日(土)、2日(日)、8日(土)、9日(日) 11:00~17:00
会場:広瀬川・馬場川流域6会場(旧安田銀行担保倉庫、広瀬川美術館、ya-gins、Maebashi Works、map前橋“市民”ギャラリー、喫茶マルカ) 詳細はコチラ
料金:一般500円(高校生以下、障害者と付添1人無料)※パスポート制・会期中何度でも入場可 参加作家:尾花賢一、山形敦子、林麻依子、菅原久誠、「加藤アキラ追悼」展


