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【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.39】「オシャレな赤煉瓦」

2024.10.07

【萩原朔美の前橋航海日誌Vol.39】「オシャレな赤煉瓦」

 刑務所の敷地に詩人が紹介されている。そんな施設があることを知ると、みんな驚く。どこにあるのか。前橋刑務所にあるのだ。入り口近くに、建造された明治21年当時の赤煉瓦の外壁の一部が残されていて、その外壁の解説文の中に登場している。

 「-当時の監獄の印象は、郷土の詩人・萩原朔太郎氏の作品『監獄裏の林』の中に詠われており、赤煉瓦についても、その余の作品で叙情的な点描がなされている。-」

 赤煉瓦の外壁は、修復しながら今も一部を除いて生き続けていて、趣のある光景を作り出している。詩人でなくても、落ち着いた煉瓦の壁を見ながらの散歩は気持ちいい。

 以前は、煉瓦の蔵が市内に沢山あったらしい。もしも沢山残されていたら、今頃、赤煉瓦画廊、赤煉瓦カフェ、赤煉瓦劇場、赤煉瓦コンサートホール、赤煉瓦パン屋、赤煉瓦本屋、赤煉瓦ブティック、赤煉瓦有機農産物売店、赤煉瓦古着屋、赤煉瓦ホテル、赤煉瓦図書館、赤煉瓦文学館、赤煉瓦セレクトショップ、などになっていただろう。残念でならない。刑務所の素晴らしいシックな赤煉瓦の塀を見るたびに、幻のオシャレな前橋赤煉瓦街をイメージして楽しむことにしよう。

Sakumi Hagiwara

萩原朔美(はぎわら・さくみ)

1946年11月、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら、演出を担当し映像制作も始める。版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮。世田谷美術館に版画、オブジェ、写真のすべてが収蔵されている。著書多数。多摩美術大学名誉教授。2016年4月から前橋文学館館長(現在は特別館長)。2022年4月から金沢美術工芸大客員教授、2023年7月から前橋市文化活動戦略顧問。