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【前橋花火大会2023 side story】
前橋の夏の夜空を変えた男 
目指すは「神明の花火」超え

2023.07.23

【前橋花火大会2023 side story】
前橋の夏の夜空を変えた男 
目指すは「神明の花火」超え

「ずいぶんひどい花火を上げているな。色も悪いし、演出もダメだ」。10年前、前橋花火大会の打ち上げに借り出され、絶望したベテラン花火師、吉田敬一さん。いまは蟻川銃砲火薬店が経営する上州花火工房の工場長として、前橋花火大会の企画、演出、花火制作、打ち上げ、すべてを担っている。「前橋の花火を変える」を合言葉に歩み続けてきた吉田さんと上州花火工房スタッフの足跡を追った。(取材/阿部奈穂子)

密度が高く、硬い「星」

「こんな斬新な色の花火は見たことがない」。花火マニアは声をそろえる。前橋花火大会の一番の魅力は色だ。

時代とともにファッションの流行色は変わる。吉田さんは花火の色も毎年変えている。「伝統の色も大事だが、それだけにこだわるのはつまらない。今年は淡いパステル色の花火を見てほしい」

吉田さんが開発した“七色に変化する花火”も画期的。二色、三色の変化はほかにもあるが、七色は希少だ。

花火玉の中には、「星」と呼ばれる火薬の粒が入っている。「花火師の間で、星は柔らかく作るのが定説。燃えやすいからね。でも私は硬く、金属みたいに作り上げる。それだけいろんな色を入れて密度を高くしているんだ」

ほかの花火師からは、「こんな硬い星でよく火がつくね」と驚かれるが、そこは「経験、感覚、技術だよ」と笑う。

▲8月12日の前橋花火大会に向け、花火制作もラストスパート

自分の技術と能力を発揮できる場を

吉田さんの生まれは福島県。「結婚した、子どもが生まれたといえば花火。家の上棟式にも花火。福島では祝いの席にはいつも花火があった。花火が生活に寄り添っていた」

16歳から近所の花火製造会社でアルバイトをしながら、花火作りを学んだ。

その後、埼玉県の歴史ある花火会社の花火師として、「神明の花火大会」をはじめ、日本を代表する江戸川や墨田川の大会の花火作りに携わる。花火にとって「色」は命と、独自に色の開発も始めた。

当初は全国から多くの人が訪れる大会で、多くの喝采の中にいることが喜びだったが、次第に心は変化していく。「いまの環境では私の求める新しい花火は作れない。自分の技術と能力を発揮できる場所を見つけたい」

▲花火ひと筋40年、吉田工場長

▲吉田さんの花火は「色」が違う

「前橋で一緒に作りませんか」

10年前、吉田さんが50歳のとき、打ち上げの手伝いに行った前橋花火大会で、蟻川銃砲火薬店社長の蟻川洋子さんと出会った。「ひどい花火を上げてますね。数、上げればいいってもんじゃない」、率直にそう言った。

蟻川銃砲火薬店は1854(嘉永7)年、刀鍛冶として開業。明治~大正時代に火薬類や煙火の販売許可を取得。1890(昭和23)年には製造許可も取り、花火作りを始めた。しかし、数年で休止。前橋花火大会には第1回から携わっていたが、数社の花火会社に依頼してそれを取りまとめるという形だった。

「自社でオリジナルの花火を作りたい。しっかりした演出もしたい。そう思っていた矢先でした」と蟻川さん。

色にこだわり、伝統にとらわれない独自な製法の研究開発を続ける――。聞けば聞くほど吉田さんの花火への思いは深かった。

「当社で思い描く花火を作りませんか」。蟻川さんは花火師の第一人者をスカウトした。

▲蟻川火薬銃砲店15代目社長の蟻川さん

米のり、コンニャクで自然に戻る

2015年、吉田さんは蟻川銃砲火薬店の一員となった。まず変えたのは前橋花火大会のプログラムと打ち上げ方法。これまでは大渡橋の上流と下流、2カ所のポイントで打ち上げていた。

吉田さんは大渡橋をはさんで、数カ所に打ち上げ箇所を設けて、ワイドで打ち上げるスタイルにした。迫力が全然違う。「当初は幅300㍍からの打ち上げ。翌年は500㍍、翌々年は600㍍に広がっていき、2018年には800㍍ワイドからの打ち上げを行っています」

 

▲800㍍ワイドからの迫力ある打ち上げ

2016年、蟻川さんは前橋市東大室町の大自然の中に、オリジナルの花火を製造、開発する「上州花火工房」を開業。吉田さんは工場長となった。スタッフは総勢5人。蟻川さんの息子、博嗣さん、吉田さんの娘、萌乃佳さんという若いパワーもいる。

「材料は自然にやさしいものしか使わない」というのも吉田さんのポリシー。花火玉に貼るノリは化学ボンドではなく、米ノリと廃棄予定の県産コンニャク粉を使う。「田畑に落ちても土に戻るからね」

▲花火を作る萌乃佳さん

9月には工房の一角に、体験コーナーを開く予定。線香花火作りやレプリカ玉の展示、花火師の目線で花火を見られるVR施設、花火大会の様子を映し出すモニターなどが設置される。

「群馬の人に花火を身近に感じてほしいと思います」と蟻川さんは力を込める。

花火師としての吉田さんの目標は「前橋花火大会を、神明の花火大会を超える大会にすること」。今年、還暦を迎え、より一層研究開発に力を入れる。

▲東大室町にある上州花火工房

▲今年の大会でも七色の花火「虹の町 まえばし」、800㍍ワイドの打ち上げを行う

第67回前橋花火大会
日時/2023年8月12日(土)荒天時中止
会場/敷島緑地 河川敷、日本トータグリーンドーム前橋(テラス)、正田醤油スタジアム(フリーエリア)
開場/15時
花火打ち上げ/19時~20時(予定)
プログラムは8部構成(下記参照)

19時~ 1.煙龍―ENRYU-
19時10分~ 2.  オープニング超ワイドスターマイン
19時15分~ 3.キャラクタースターマイン
19時25分~ 4.前橋名物!元祖空中ナイアガラ
19時30分~ 5.スペシャルスターマイン「風神・雷神」
19時35分~ 6.音楽花火「みんなの推し」
19時45分~ 7.虹の町 まえばし
19時50分~ 8.グランドフィナーレ「KOKOROE」
【前橋花火大会2023 side story】前橋の夏の夜空を変えた男 目指すは「神明の花火」超え(N)

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