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学びたい
【連載▶4】赤城山と青い空が好き
前橋に高層マンションは必要か
2025.01.07
復活した三角屋根の旧国立駅舎
JR国立駅南口を降り立った。2024年6月、完成間近になって突然、解体されることになった話題の高層マンションの取材に行く。
中央線西部のどこも同じ外観の駅の前に別の“駅”があった。大正期に建てられた三角屋根のかわいい木造駅舎だ。まちのシンボルとして市民に親しまれたが、中央線の高架化工事に伴い、2006年に解体された。
国立市は同年、市の有形文化財に指定、部材を大切に保管し2020年、駅前に復元した。「まちの魅力発信拠点」として蘇った駅舎ではかつての待合室でコンサートが開かれ、執務室や駅長室は「まち案内所」として活用されている。
前橋駅も…。アイデアが浮かんだが、これは後述するとしよう。マンションのある富士見通りに向かう。
関東の富士見100景選定
駅前の円形広場から南西に伸びる通りはその名の通り、富士山がきれいに見える。だが、残念ながらこの日は霞んで見えなかった。
飲食店やクリニックが入居する中低層の建物が並ぶ商店街を歩くと、遠くからも防音シートに包まれたマンションが目に入る。10分ほどで到着。解体工事は2025年8月までかかるようだ。
写真を撮っていたら近くに住んでいる女性に声を掛けられた。マンションの取材をしに前橋市から来ていることを告げると、「まあ、私の母は前橋生まれなの」と饒舌に語り始めた。
「富士山の眺めが素敵なの。このマンションがなくなって本当にうれしい。国立は文教都市。住民が景観をとても大事にしています。高い建物はいらないわ」。解体が進むマンションを見やり解説してくれた。
確かに、国立市民の景観への意識は高い。市都市計画課によると、市民の直接請求を受けて1998年に都市景観形成条例が制定され、まちづくり条例や地区計画で高さを含めた規制が定められている。
「国立マンション訴訟」と呼ばれた建設中の高層マンションを訴えた住民訴訟では、周囲にあるイチョウ並木と調和させるため、高さ20㍍を超える部分の撤去が命じられた判決が出たこともあった。
引渡し前、直前の解体決定
ただ、今回のマンションが建てられた場所は高さ規制がかかっていなかった。
計画が明らかになると、「富士山の眺望が損なわれる」と懸念する住民に対し、事業者の積水ハウスは「見えなくなることはない」と回答。住民や市と協議を重ね、当初の11階建てを10階にするにとどめた。
市に建設中止の届け出があったのは引き渡しを1カ月後に控えた時期だった。積水ハウスは自社のホームページで「完成が近づき、建物の富士山に対する影響が現実的になり、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定しました(要約)」と説明している。
住民はこの決定を歓迎するとともに、驚きを持って受け止めている。「なぜ、この時期か」。「壊すのならもっと早くすれば損失も少ないのに」
理由について、「完成後に訴訟を起こされるのを恐れた」とか、「会社のブランドイメージを守るため」と推測する識者もいたが、真相は分からない。ただ、結果として富士山の眺望は守られた。
松江城近くで高層マンション
「景観法」が2005年に施行され、各自治体が独自の景観計画を策定、建物の高さや外観を規制できるようになった。だが、最近になってマンション建設によるトラブルが全国で相次いでいる。
神奈川県海老名市では国指定史跡「相模国分寺跡」の隣りで14階建てマンションの建設計画があった。住民の反対の声に押され、事業者は2024年5月、計画を断念。戸建て用の宅地造成に変更している。
一方、島根県松江市では国宝「松江城」の近くで市内最高層となる19階建てのマンションが基礎工事に入っている。2025年1月下旬から販売を始め、26年7月下旬に完成の予定だ。
市民の心を逆立てているのはシンボルである天守閣とほぼ同じ高さであること。市民からは当然、反対運動が起こり、市長は何度も事業者に掛け合ったが、色よい返事はなく計画は変更されていない。
松江市は高さ制限を可能にする条例改正を急いでいるが、新たな高層マンション計画もあるという。