interview
聞きたい
【聞きたい 彩乃かなみさん ▶前編】
ミュージカル「ひめゆり」12年ぶり出演
命と向き合い続けて
2025.08.05
1996年の初演以来、30年近くに渡って上演を続けるミュージカル座の「ひめゆり」。太平洋戦争末期の沖縄で犠牲となったひめゆり学徒隊の悲劇を、全編41曲の歌で綴り、戦争の悲惨さと命の尊さを力強く訴える。前橋市出身で元タカラジェンヌの彩乃かなみさんは2013年に主役の学徒、キミを、今年8月の公演では学徒隊の指導者、上原婦長を演じる。
(取材/阿部奈穂子、撮影/七五三木智子)
戦争の捉え方、変わった
――「ひめゆり」は特別な作品とのことですが。
12年前にキミという学徒の役を演じ、今年は上原婦長という全く異なる立場で再び出演します。干支をひと回りして同じ作品に違った視点から関わるというのは初めての経験です。不思議な気もしますし、とてもありがたく感じています。
――2013年にキミ役を演じることになった経緯を教えてください。
もともと出演予定だった方が降板され、急きょ代役として声をかけていただいたんです。稽古期間は2週間ほどで、緊張と集中の連続でした。本番を迎えるまでがあっという間で、正直なところあまり記憶が残っていないほどです。
▲2013年、キミを演じた彩乃さん ©ミュージカル座
――ひめゆりの話はご存じでしたか。
「沖縄戦で若い女性たちが従軍した」という程度の漠然とした知識しかありませんでした。演じることで初めて、その出来事の重みと個々の命の物語に触れることができた気がします。
――戦争についての見方は変わったと感じますか?
大きく変わりました。以前、広島平和記念資料館を訪れたときは、圧倒的な重さと絶望感に打ちのめされました。でも「ひめゆり」は、「生きよう」とする思いが主題にある。悲惨な描写も多くあるけれど、生きたいという願い、命の根源的な力が脚本からにじみ出ていて、希望を感じるんです。
▲「ひめゆり」の稽古に励む彩乃さん
賞に裏付けられた重みある舞台
――今回演じる上原婦長とはどんな方ですか。
上原婦長は南風原陸軍病院で学徒たちを支えた看護婦長です。かつてキミ役を演じたときは、上原婦長を年配の女性のように感じていたのですが、調べてみると実際は25歳前後。当時の私より若い年齢で、命を懸けて学徒たちを導いていたことに、尊敬の気持ちを抱かずにはいられません。
――強く凛とした女性だったのですね。
さらに、4月に出演したミュージカル座の「ピエ・イエス」で聖母マリアを演じた際、演出のハマナカトオル先生が「『ひめゆり』の上原婦長も聖母のような存在として描いています」とおっしゃった言葉がとても胸に響いて…。包容力と責任感を備えた役として、真摯に向き合っています。
©ミュージカル座
――劇中で印象深い場面は。
キミが奇襲攻撃で倒れたあと、夢の中で出会った人たちが幻想的な姿で現れるシーンです。ホタルの光として登場する亡き人々が、とても美しくて。悲しみのなかに希望の光が差すような演出に、心を打たれます。
――「ひめゆり」は数々の賞を受賞していますね。
はい。月刊「ミュージカル」の年間ベストテンに何度も選ばれていますし、東京芸術劇場ミュージカル月間優秀賞も受賞しました。毎年のように再演され、ミュージカル座の作品の中でも、特に長く愛されてきた代表作です。
今年は戦後80年、そしてミュージカル座の創立30周年という節目の年。そんな大切なタイミングで、再びこの舞台に立たせていただけることに心から感謝しています。
後編では、舞台への憧れを育んだ前橋の街の記憶と、忘れられない味をたどります。
【ミュージカル「ひめゆり」2025公演情報】
公演期間:2025年8月21日(木)~24日(日)
会場:シアター1010(東京都足立区千住3-92 千住ミルディスⅠ番館 11F)
脚本・作詞:ハマナカトオル・演出・振付:梅沢明恵・企画・製作・主催:ミュージカル座
公式サイト:https://musical-za.co.jp/stage/himeyuri2025/
あやの・かなみ
1976年、栃木県生まれ。小学2年で前橋市へ。前橋三中―前橋女子高―宝塚音楽学校卒。1997年、宝塚歌劇団で初舞台。月組トップ娘役となる。2008年退団。現在は歌手、女優として活躍。
【聞きたい 彩乃かなみさん ▶後編】 夢をくれた前橋の夏 宝塚と故郷の味の記憶
宝塚歌劇団の元トップ娘役・彩乃かなみさんは、高校時代を過ごした前橋で偶然目にしたテレビ番組をきっかけに舞台の道を志した…


