interview
聞きたい
【新館長 高坂麻子さんに聞く】
前橋文学館 「外」に飛び出す
2024.07.22
開館 31 年目を迎えた前橋文学館。4月から萩原朔美館長が特別館長となり、新たな館長に職員の高坂麻子さんが就任した。2017年に迎えられた萩原館長のもと、斬新な発想で新機軸を打ち出してきた文学館。新館長が目指す次なる姿は―。
文化施設の回遊を楽しむ
――前橋文学館のある広瀬川河畔が新しくなり、 散策を楽しむ人が増えています。
街中を流れる広瀬川は前橋の宝ですね。整備された遊歩道の欄干にゆかりの作家や萩原朔太郎の詩などを綴った短冊を掲げています。 コロナ禍で休館を余儀なくされたとき、散歩する人たちに楽しんでもらったのが始まりでした。
朔太郎橋の上で開かれるマルシェと連携したり、七夕まつりに合わせて企画を打ったりして、 街中に来る人が文学館に立ち寄ってくれるよう工夫しています。
――前橋文学館も街中を盛り上げるパーツとしての存在意義があると指摘されています。アーツ前橋や前橋シネマハウスとの連携をどう考えますか。
もちろん、一緒にやっていきたいですね。 アーツ前橋とも前橋シネマハウスともこれまでも共同展や関連事業で協力し合ってきましたが、より加速させていきたい。リニューアルした広瀬川造形館はともに広瀬川沿いにあり、こちらとも協力し合っていきたいですね。
JR前橋駅から街中にかけて文化施設が続きます。アーツやシネマハウスがあり、ギャラリーのあるまえばしガレリア、建築やアートの見ごたえのある白井屋ホテルと、広瀬川まで歩いて苦にならない距離感でジャンルの異なる文化施設が点在しています。
文化的なものが好きな人の心に響くコンテンツがそろっています。回遊することによって楽しい街になるでしょう。
朔美さんから言葉のシャワー
――館長に就任して4カ月。落ち着いてきたと思います。いまの気持ちを。
イベントや展示替えが続き無我夢中でしたが、ようやく周りを見渡せるようになりました。
文学館では6年間、萩原朔美館長と一緒に仕事をさせていただきました。
館長となり、ギアをもう一段階上げなければならないかな、と覚悟しています。
肩書は館長ですが、業務的にはこれまでの副館長と同じく対外的な折衝や管理といったものです。 今まで4人の副館長のもとでいろいろ勉強させていただきました。同じようにはできないけれど、私らしくやればいいのかなと考えています。
――就任の打診を受けたときはどうでした?
正直びっくりしました。別の部署への異動かなと予想していたんです。
それが館長ということで「大変なことになったな」と。自分も大変になるけど、周りも大変だなと心配もしました(笑)。
ただ、年度またぎで業務が多忙だったので余計なことは考えなくて済みました。
――特別館長となった萩原朔美さんからは何かアドバイスがありましたか。
直接的なアドバイスではありませんが、 館長に就任以来、特別館長の講演会などに随行することが多くなり、仕事や生き方について、心に響く「言葉のシャワー」を浴び、勉強させてもらっています。
――身近に見てきて、朔美さんはどんな人ですか?
アイデアをひねり出そうとしているときは、肉食獣のようにギラギラしています(笑)。
話でしか聞いていませんが、「ビックリハウス」を作っていた若かりし時代と変わらないであろう勢いを感じさせられます。
前例踏襲は基本NG。面白くないとダメ。何かひと捻りが必要で、私たちはそれに応えようといつも必死です。
――普段はどんな人でしょう。
繊細というか、心根の優しい方です。いろいろなことにどんどん興味が移っていきます。飽きっぽいと言えばそうかもしれませんが(笑)。常に新しいことを考え、行動に移します。
「永遠の不良」と呼ぶ人がいますが、いい意味でそんな人です。
人生を変える「言葉」を発信
――前橋文学館の来館者数の推移はどうでしょう。 満足度は?
一番多かったのは朔美館長就任2年目の2018 年、6万 3000 人でした。コロナで激減し 2020 年は1万 7000 人。それから徐々に盛り返して、昨年は3万 8000人まで回復しました。
関東圏内はもちろん、台湾など海外などからの来館者もいます。
多くの人に楽しんでいただけるよう、展示はジャンルにとらわれず、ただ本や原稿を並べるだけでなく前橋文学館なりに解釈し、時にはアート作品のような仕掛けをしています。
――独自の展示スタイルは旧来型の文学館らしくなく、全国でも異色の存在ですね。
朔美館長になられてから大きく変わりました。
それまでは常設展を中心に、朔太郎をはじめ郷土の詩人、表現者を丁寧に紹介してきましたが、就任後はそれらをリセットしました。
ジャンル横断的にし、展示方法もガラリと変えました。展示に合わせてリーディングシアターをしたり、映像や音声と組み合わせたりと、いろいろな角度から作品や言葉の持つ意味を感じ、考えてもらえるよう工夫しています。
――高坂館長がこれまでに担当した中で最も印象に残っている企画な何ですか。
『呪怨』で知られるホラー映画監督、清水崇さんに焦点を当てた企画展です。
最初に担当したこともありましたし、文学館では取り上げたことがなかった異例の経歴の方でしたので、よく覚えています。
AR (拡張現実)を駆使してスマホに『呪怨』のキャラクターが現れる仕掛けをしたり、前橋シネマハウスと連携して清水監督の映画上映会やトークイベントを行ったりしました。
狭義の文学に縛られず、文学を間口にして幅広く地元密着のイベントができたと感じています。
――館長として、どんな運営を心掛けますか。
前橋文学館の中だけでなく、外に出ていきたい。
近隣施設はもちろんのこと、前橋刑務所との連携も計画しています。朔太郎の詩集『氷島』に「監獄裏の林」という作品があるのですが、その中には刑務所(当時の前橋監獄)の周辺の様子が出てきます。今でも塀の一部が残っていて、当時を知ることのできる貴重な場所となっています。それにちなんで、秋の矯正展への展示協力など、多くの人に文学館を知っていただく機会を設けられたらたら、と思っています。
言葉の魔術というか、言葉ってひょんなところで力を発揮すると思います。文学館の外でも、その力を試してみたいですね。
――文学館にも気軽に来館してほしいですね。
来てよかった、 楽しかったと感じてほしい。入りづらい、 敷居が高いと思われたら終わり。上から目線で 「教えてあげるんだ」という気持ちがあったらダメですね。
文学館は、人生を変える一冊の本、一行の文章、ひとことの言葉との出会いの場として、みなさんの来館をお待ちしています。
ぜひ、お気軽にご来館ください。