interview
聞きたい
【聞きたい萩原朔美×東出昌大6▶︎】
映画が好き、でも舞台に立つ
2022.11.20
映画『天上の花』は朔太郎を師と仰ぐ三好達治が妻子を捨て、師の妹、慶子と一緒になるが、破滅的な最後を迎える。三好役の東出昌大さんは「奇妙な現場」だったと振り返ります。萩原朔美さんはワンシーンのみの出演に後悔をにじませました。
壮絶な家庭内暴力シーン
萩原 映画『天上の花』の撮影では他の役者さんで印象に残った人はいました?
東出 慶子役の入山法子さんとずっと一緒で。家庭内暴力のシーンが出てくるけど、お互い信頼関係がないと絶対できない。凄惨な家庭内暴力なんですけど、感情の趣くままに叩くわけにいきませんが、手を1回見せてから叩くにしてもリアリティーがないとだめで、「行くぞ」というのが分かるようにしないと。互いに殺そうとするテンションだけど、信頼感で結ばれるという、奇妙な現場でした。
萩原 僕は彼女とは直接会ってなくて、どんな女優さんなんだろうって、頭の中で想像を巡らせていた。出演者向けの試写で初めて見たけど、リアクションが結構すさまじくて、あれ、どうなんだろって監督とも話していたくらい、すごかったです。
自分はシーンが少ないんだよな(笑)。北原白秋の弟役で、ワンシーンだものね。セリフも少なくてあれじゃあ不満だよ。出版社の社長で、倒産した日のこと。何という役だよ(笑)。三好に「ごめん、給金払えない」なんて言ったら、彼、東出さんなんだけど、泣くんだよ。
東出 それまで三好はフランス文学の翻訳をやっていたんですよ。給金を得られるなら慶子さんと結婚させてやるみたいなこと言われて、意気揚々と会社に入っていったら、倒産でしょ。
萩原 それで、「ごめん」じゃ、すまないよな(笑)。もうちょっと会社の事情とか話す場面があればよかったのに、ないんだもの。
実は、あのシーン、「いや悪い」って立ち止まって振り返る演技をしようと考えていて忘れてしまった。失敗したんだよ。かなり後悔したな。
カメラのアングルで自分がどのように見えるか、顔や手の位置とか、出来上がったのをカメラで見ればよかったんだ。東出さんはそれをすべてやってチェックしていた。やっぱり真面目な男だな。
最後に聞きますが、東出さんは舞台と映画はどっちが好き。
演技が上手くなり手が届かない
東出 舞台はものすごく緊張するので映画の方が好きですが、舞台には立たねばと思っています。映画は時間がかけられない現場もあるのですが、舞台は1カ月とか同じ釜の飯を食べて、お互い意見を出し合いながら創り上げていきます。
萩原 演技に対して、すごく真面目だし、熱心だし。どんどん上手くなるよ。40歳になったらもう俺たちは手が届かない。背も高いしね(笑)。
はぎわら・さくみ
1946年、東京都生まれ。寺山修司が主宰した「天井桟敷」の旗揚げ公演で初舞台を踏む。俳優の傍ら演出や映像制作も始め、版画や写真、雑誌編集とマルチに才能を発揮する。2016年4月から前橋文学館館長の就任。多摩美術大学名誉教授。金沢美術工芸大客員教授。アーツ前橋アドバイザー。
ひがしで・まさひろ
1988年、埼玉県生まれ。高校時代にモデルとしてデビュー、パリ・コレクションにも出演する。2012年に映画『桐島、部活辞めるってよ』で俳優に転身。NHK連続テレビ小説の好演技で人気がブレイク、映画、舞台と幅広く活躍する。狩猟免許を持ち、みなかみ町などで狩猟をする。