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【特集 前橋×2025▶4】
「惜別 匠の技」
消えていく名物、宝物

2025.12.30

【特集 前橋×2025▶4】
「惜別 匠の技」
消えていく名物、宝物

 おしゃれなカフェやアパレルショップが続々と出店した前橋市中心街。一方で、静かに暖簾を下ろした老舗もあった。市民に長年親しまれた名物、大事にされた宝物が姿を消した。

元黒飴 105年の歴史に幕

 黒くて小さな飴。素朴な甘さで根強いファンがいた「元黒飴(げんくろあめ)」の製造が6月で終了した。

 製造元の「室橋商店」は1920年創業、前橋名物として人気を誇った。3代目店主の室橋俊久さん体調を崩したのを機に2003年から生産を減らし、毎週金曜だけ店を開くようになった。

▲開店前から長い行列ができた=室橋商店

▲ずっと変わらなかった元黒飴の素朴な味

 「楽しみにしてくれる常連さんが多い。続けられる限りは続けたい」と話していた室橋さんだったが、自身の体調も長年の相棒だった機械も限界となり、閉店を決意した。

 「製造者と機械設備の『老朽化』により、元黒飴を作りつづけることが難しくなりました」と書かれて以来、長い行列ができた。常連はほとんどお年寄り。最後の日は涙ぐむ人もいた。

▲中心街から誓う便利だった登利平住吉店

 室橋商店と国道17号線を挟んで合い向かいあった「登利平住吉店」は5月に閉店した。こちらは人手不足が原因。近くの住民は「Wの悲劇」を味わった。

天然素材、手作業で作る曲物

 前橋市中心街を東西に走る立川町通り。ビルとビルの谷間にひっそりあった平屋建ての「島田フルイ店」は8月に店を閉じた。病気療養中だった4代目店主の島田泰男さんが85歳で永眠。1908年創業、117年の歴史に終止符を打った。

▲取材を受けた島田さん

 篩(ふるい)や蒸篭(せいろ)といった木製の曲物(まげもの)を手作業で製造した。薄く切ったヒノキを丸く曲げ、山桜の樹皮で縫い留めていく。金属は一切使わない、天然素材100%の逸品。「メンパ」という蓋付きの弁当箱は若い女性にも人気だった。

 手作業で曲物を作る店は前橋市内にはなく、全国的にも希少。閉店の知らせに愛用者は一様に悲しんだ。

常連に愛された弁当、マグロ

 JR新前橋駅ロータリーにある人気の弁当専門店「うみんちゅ」は11月に閉店した。手作りの弁当は毎日完売と業績は好調だったが、家族の体調不良から事業の継続が困難となり、苦渋の決断だった。

 居酒屋として2004年に開店、コロナ禍で昼食や弁当に力を入れ、2022年から弁当専門店になった。

 全国からあげグランプリで10年連続最高金賞を受賞した味はもちろん、店主の山本真悟さんの人柄も人気を押し上げた。

 高校生のスポーツ大会用に予約を受けた379個の弁当が直前でキャンセルになった際、「台風が理由なので仕方ないです。次にお願いします」とキャンセル料を受け取らなかった。SNSで事情を知った常連客が「代わりに買います」と名乗りを上げて完売となるなど、お客さんに愛された店だった。

▲顧客に愛された弁当と店主=うみんちゅ

 マグロ好きな前橋市民を満足させた「まぐろのいしざか」は11月に店を閉じた。

 本マグロやインドマグロだけでなく、良質なさまざまな種類のマグロを扱った。「ヅケにしたい」と話すと赤身の多いバチマグロを薦める親身な魚屋さん。ショーケースに柵で並んであり、好きなものを選ぶと、店主がすぐに刺身にしてくれた。

▲いしざかのショーケース

 35年前、先代の店主に前橋新聞me bu ku記者が上毛新聞のリポーター時代に取材した縁があり、「食べたい」で紹介したいと再度の取材を申し入れたが、me bu kuをよく視聴しているという若い店主に「常連さんに迷惑が掛かるから」とやんわり断られたこともあった。

 「マグロはここでしか買わなかった」と閉店を知り、肩を落とすファンが多かった。

▲35年前の新聞に載った写真が店内にあった