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空と青をめぐる終わりなき旅路
廣瀬智央さんの新作個展10月4日から

2025.09.29

空と青をめぐる終わりなき旅路  
廣瀬智央さんの新作個展10月4日から

 現代美術家・廣瀬智央さんの個展「From Sky to Sky」が10月4日から、まえばしガレリア ギャラリー2「小山登美夫ギャラリー前橋」で始まる。空と青をテーマに30年以上探究を続けてきた廣瀬さんの未発表作や新作を展示し、観る人を有限と無限の境界へ誘う。
※サムネの写真/Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 25.5 x 33.0 cm ©︎Satoshi Hirose

前橋との縁から生まれた作品

 廣瀬さんが群馬県前橋市と深い関わりを持つきっかけとなったのは、2013年の「アーツ前橋」開館だ。屋上に設置された看板作品「遠い空、近い空」は、母子支援施設に暮らす子どもたちと半年にわたり空の写真を交換しながら制作された。対話の中から生まれたその作品は、廣瀬さんにとって「空」をめぐる実践の新たな扉となった。

 以後もグループ展「表現の森」(2018)や個展「地球はレモンのように青い」(2020)を経て、毎年前橋を訪れ、母子支援施設でのワークショップを続けている。

 今回の展覧会は、その原点に立ち返るような位置づけ。未発表作と新作を軸に、空と青をめぐる探究の成果を披露する。「青と空の往還こそ、作品を生み出す呼吸そのもの」と廣瀬さん。

Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 31.1 x 22.5 cm ©︎Satoshi Hirose

青と空が交差する場所

 「青」と「空」は廣瀬さんが30年以上にわたり取り組むテーマ。それは単なる色や風景ではなく、存在や感覚の根源を探る実践であるという。青は物質として現れつつも、重ねるうちに不可視の深みに変わり、海や宇宙の記憶を呼び覚ます。空は背景ではなく、私たちを包み込み、生成し続ける場そのものだ。そこでは個と個が交わり、世界と自己の境界が溶けていく。

 仏教思想における「空性」とも響き合うこの探究は、東西の美術史的文脈とも交差している。サイ・トゥオンブリーやルーチョ・フォンタナ、西洋の作家たちが切り開いた表現の軽やかさや空間への眼差し。さらに伊藤若冲や葛飾北斎が描いた群青の精神性。廣瀬さんの作品は、その双方を往還しながら新たな「空と青の場」を築いている。

Untitled(Calasetta)2024 Paper box.gouache and acrylic color each:h14.7×h14.8×d6.1cm ©︎Satoshi Hirose

 展覧会タイトル「From Sky to Sky」は、美術批評家アンジェロ・カパッソ氏のエッセイから取られた。25年を経て読み返したとき、すでに自身の歩みを言い当てていたことに深い共感を覚えたという。今回の展示では、観る人が青に包まれ、空に開かれながら、感覚の境界を越える体験を共有することが期待される。

 廣瀬さんは「私にとって青と空は、生きることそのもの」と語る。有限と無限を往還しながら、存在の根源へ触れようとする営みが、前橋の地で再び結実する。

Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 45.5 x 34.2 cm ©︎Satoshi Hirose

廣瀬智央「From Sky to Sky」

【会期】2025年10月4日~11月16日

【休廊日】月曜・火曜・祝日

【会場】まえばしガレリア ギャラリー2「小山登美夫ギャラリー前橋」(前橋市千代田町5丁目9−1)