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前橋で受け継ぐ丸薬づくり 
便秘薬『乾坤』80年の伝統と品質

2025.08.16

前橋で受け継ぐ丸薬づくり 
便秘薬『乾坤』80年の伝統と品質

 全国で80年以上にわたり支持されてきた便秘薬『乾坤(けんこん)』が、前橋市六供町の玄妙洞本舗で今も作られている。漢方薬で現在主流のエキス製剤ではなく、昔ながらの丸薬。添加物を使わず生薬そのものだけで製造する。粒数で服用量を調節でき、体にやさしい効きめが特徴だ。三代目坂本正行さん、四代目光由さんの製品づくりへの思いを追った。
(取材/柁原妙子リポーター)

生薬だけで作る職人の技

 現在、『乾坤』の製造は四代目社長が一人で担う。季節や天候によって異なる温度や湿度に合わせ、生薬に加える水分量を微調整し、練合後に製丸機で球状に成形する。製造中は水分の蒸発で粒が機械に貼り付くのを防ぐため、5分ごとに調整を続ける。作業は飲まず食わずで6時間、1日で約60㌔を作り上げるという。

 出来上がった丸薬は、水分量を7~8㌫まで乾燥させることで、10年経ってもカビが生えない。

 1粒130mg。初めに加える水分量の判断は、経験に基づく緻密な計算が欠かせない。要求される職人技を継承すると同時にまた、『乾坤』は、1980(昭和55)年にGMP(適正製造基準)省令が施行される前からGMPに則り、現在も適正な管理のもとで製造されている。

▲三代目、現会長の正行さん

▲四代目の光由さん

品質を守るもう一人の担い手

 製造後の品質管理を任されるのは、管理薬剤師の高橋葉子さんだ。重量や水分含量、長期保管の安定性など、17項目の試験を一人で行う。「前任者が退職して今年1月にこの職に就いたが、病院や薬局での調剤などとは全く異なりはじめは戸惑った。分析装置の操作では学生時代以来というものもあったが、徐々に慣れ、やりがいを感じている」と話す。

▲高橋さん

 「長年飲んでいるがクセにならず、自然なお通じでいい」「粒が小さくて飲みやすい」「効果を出したい時間から逆算して服用する時間を決められる」といった愛用者の声も多く、こうした評判が支えとなっている。全国各地に固定ファンを持ち、世代を超えて愛用されている。

▲パッケージにも歴史を感じる

前橋に根付いた製薬の歴史

 玄妙洞本舗の創業者は、富山の製薬会社の四男として生まれた早川四郎さん。家業を手伝いながら、機械化が未発達の当時、“製丸士”と呼ばれる、丸薬を均一に製造する非常に高度な職人技術を身につけた。
 津々浦々で行商する中、たまたま前橋にやって来たとき、「活気があって、田舎にしては様々な面で進んでいたのが新鮮に見えたようだ。女性が働いていたことが珍しかったらしい」と三代目。
 女性が職を持ち、自由に使えるお金を持つ、そこに商機を見出した四郎さんは、心機一転、前橋に移住を決意。1931(昭和6)年、外用薬『玄妙』の製造販売を始めた。7年後に『乾坤』は生まれる。
 創業から94年、丁寧な製薬の歴史はこの地で脈々と受け継がれている。

【玄妙洞本舗 沿革】
 1931(昭和6)年、創業者・早川四郎さんが前橋市紺屋町(現在の千代田町)で外用薬『玄妙』の製造販売を開始。1938(昭和13)年に便秘薬『乾坤』を発売。1945(昭和20)年、百軒町(現在の朝日町)へ移転。1976(昭和51)年に六供町へ工場を作り、1992(平成4)年に現在地へ移転。1995(平成7)年、早川さんの孫、坂本正行さんが三代目社長、2011(平成23)年、坂本光由さんが社長となり現在に至る。