study
学びたい
藤井編集長が選ぶ【みやま文庫この一冊▶3】
佐藤寅雄『群馬県戦災誌』(110巻)
2025.08.07
64年間にわたって群馬の歴史や文化を伝える図書を出版してきた「みやま文庫」には、郷土の英知を結集した「名著」がそろっています。これまでの刊行数は253巻。1冊1冊が貴重な文化遺産であり、群馬の宝です。その魅力を少しずつ、気ままに紹介していきます。(みやま文庫編集長/藤井浩)
佐藤寅雄『群馬県戦災誌』(110巻)
平成元年(1989)年3月刊
群馬県内の戦災を広域的に記録
▼1945年8月5日の前橋空襲については、新聞記者をしていたとき、記事やコラムで繰り返し書いてきた。その際、最も頼りにしてきたのが、みやま文庫『群馬県戦災誌』(佐藤寅雄著)と『戦災と復興』(1964年、前橋市発行)である。被害の実態を知るために欠かせないのは、直接体験した人の証言。しかし時の経過により、それを得ることはどんどん困難になる。両書から伝わるのは、その生存者の具体的な証言を何としても後世に残したいという、強い思いだ。
▼「いい記録は残されることは多いが、ややもすると、いやなことは語る人も少なく記録も少ない(略)空襲・戦災はいつの時代も語り継がれなければならないことである」
『群馬県戦災誌』の「おわりに」で、佐藤さんがそう書いている。群馬県内の戦災を広域的に記録した貴重な戦争資料であり、前橋を中心に高崎、伊勢崎、太田、渋川など被災市町村の戦災を丁寧にまとめている。大きな特徴は、戦争の理不尽さ、そして証言・資料を記録することの大切さを冷静に、語りかけるように記述していることだ。
▼みやま文庫『群馬県戦災誌』
被災者への聞き取りに力
▼「時がたてばたつほど重みを増す資料がある」。十数年前、新聞のコラムでこう書いた。2冊目の本『戦災と復興』のことだ。何度、この本を開いたことだろう。
前橋空襲の被災状況と、その後の復興の歩みを克明に記録した九百数十ページにも及ぶ大著だ。全国でもこれほど充実した戦災・復興記録は例がないだろう。その価値はこれまで何度も語られてきたことだが、空襲から80年となる今年、改めて強調しておきたい。
▼何よりも驚かされるのは、被災者への聞き取りの量と内容の質の高さだ。ここで細部を紹介できないが、気の遠くなるような手間と時間が必要な作業である。しかもこの編集・執筆は、編纂委員会事務局長の松田徳松さんがほぼ一人でやり遂げた仕事だという。
松田さんは戦前まで発行されていた「群馬新聞」編集長の経験があるジャーナリスト。その後前橋市役所に入り、秘書課長などを歴任した。群馬県史編さん委員なども務め、上毛新聞などに群馬の歴史を掘り下げる数々の優れた連載記事を書いている。
▼『戦災と復興』は前橋空襲を語るとき、欠かすことのできない最も重要な基本資料である。『群馬県戦災誌』の前橋の項では、松田さんの記述を多く引用しており、4月に前橋市民文化会館2階に開館した「前橋空襲と復興資料館」の資料展示も、同書の内容に基づき構成されている。
使命感をもってこのような優れた戦災記録をまとめてくれた佐藤さんと松田さんに前橋市民の一人として心から感謝したい。
(『群馬県戦災誌』は在庫あり。定価1,500円)
▲『戦災と復興』


