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聞きたい

【聞きたい 瀬谷ルミ子さん▶4】
争いの芽を摘むしくみ 
日本が学ぶべき「平和の技術」

2025.07.20

【聞きたい 瀬谷ルミ子さん▶4】
争いの芽を摘むしくみ 
日本が学ぶべき「平和の技術」

 テロやギャングを未然に防ぐ「地域の力」に、日本が学ぶべき平和の技術がある。市民が変化の主体となり、極論や無力感に支配されない社会へ。REALsの取り組みを通じて、瀬谷さんは「祈る平和」から「行動する平和」への転換を提起する。私たちに今、何ができるのか。
(取材/阿部奈穂子)

テロを未然に防ぐ地域の力

――テロやギャングの問題にも取り組んでいると伺いました。
 コミュニティの人たちと一緒に紛争やテロ、ギャングが多発する地域でいかにそれらの争いを予防するかという取り組みをし、実際テロ組織やギャングに参加してしまった人がそこから抜ける支援もしています。

 またテロ組織やギャングに勧誘されるプロセスにも予兆があるので、その予兆を特定して未然に防ぐこともしてきています。それを現地の市民団体、スクールカウンセラー、女性警官など、子どもや若者に身近な人たちができるようにし、親が信頼して相談できる窓口も設定しています。

 コミュニティの人々自身が問題解決を担っていくこうした実践は、ナイロビ市のテロ予防戦略にも取り入れられ、国レベルでも注目を集めています。

――現場での活動を踏まえ、日本社会にはどのような課題があると感じていますか?
 日本では「平和を築く方法」が知られていません。戦争の報道はあっても、平和のプロセスは語られない。だから、軍事的な極論や無力感に陥ってしまう。軍事的な対応も必要な場合もありますが、そこに至る前に非軍事的な手段で争いを防ぐ方法があることを、日本でももっと知ってほしいです。

 トップダウンだけではなく、いわゆるボトムアップの形で平和を作るというプロセスを進めていくと平和が長く続くことは、実際に過去の和平プロセスのデータの分析などでも明らかになっています。

 そして、リーダーが市民の声を無視しないし、市民もリーダーとか政府任せにしないで自分たちが平和を作るということを自分事化して実行していくことが徹底されればされるほどその平和が強固になっていく。陰謀論やデマなどに対しても崩れにくくなるしあおられにくくなる。日本が紛争地から学べることだとも思います。

「祈る平和」から「行動する平和」へ

――REALsとして、これからどんな社会を目指していきますか?

 現地の人たちが、自分たちの力で未来を切り拓ける社会をつくることです。そのために、私たちは彼らの「選択肢に手が届くようにする」。

 日本でも同じように、極論に走らず、市民の力で希望を持てる社会にするための知恵と仕組みを育てていきたいです。日本は平和な状態にありながらも、日本と紛争地で起きている社会の構図には共通するものがあると感じています。

――日本だからこそ、果たせる国際的な役割もあるのではないでしょうか。

 日本は軍事色が強くない、宗教的にも中立性が高い、そして戦争の被害を受けた国でもあります。だからこそ、世界の紛争地で信頼される存在になりうる。その特性を活かして、私たちが培ってきた「祈る平和」から「行動する平和」へとシフトしていく必要があると考えています。

――最後に、読者に伝えたいことはありますか。

 私たちの人生にも社会にも、その時々に自らの進む道を決めることができる選択肢があります。そして、その選択肢一つひとつには使用期限があります。あるタイミングを過ぎると目の前から消えてしまう選択肢もあります。時に、自分も気づかないうちに…。

 社会が戦争と平和のどちらに向かうかの分岐点も、あるタイミングを過ぎるともう選択の余地がなくなります。誰かが社会を変えてくれるのを待つのではなく、私たち一人ひとりが変化の担い手になる方法をまず知り、自分でできる行動を考えてみてもらいたいです。

▲ソマリア 現地NGOへの治安改善の訓練

せや・るみこ

1977年、桐生市生まれ。前橋女子高―中央大学総合政策学部卒。英ブラッドフォード大紛争解決学修士課程卒。ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネなどで国連PKO、外務省、NGO職員として勤務。2007年、認定NPO法人REALs(旧日本紛争予防センター)事務局長、2013年から同理事長。2011年、Newsweek日本版「世界が尊敬する日本人25人」、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012準大賞。2022年、米NEW YORK TIMES「世界に足跡を残す女性10人」選出。

 

認定NPO法人「REALs(リアルズ)」

ホームページ https://reals.org/index.html