interview
聞きたい
【聞きたい 瀬谷ルミ子さん▶3】
ギャングだった若者が教師に
平和は「信じること」から始まる
2025.07.19
REALsの活動の柱は、争いの予防と平和の担い手の育成だ。元ギャングの若者が教師や警察官として地域の希望となり、民族対立の予兆に備えるしくみが現地で根づきつつある。瀬谷さんは「信頼があって初めて、変化は生まれる」という。
(取材/阿部奈穂子)
スラムの若者たちが変わるとき
――瀬谷さんが理事長を務める認定NPO法人「REALs」。団体名には、どのような思いが込められているのでしょうか?
REALsは「Reach Alternatives」、つまり「選択肢に手が届くようにする」という意味です。紛争地では、生きるか死ぬかすら選べない。でも、支援が進むことで、人生を選ぶ自由が少しずつ戻ってくる。選択肢が増えることが、平和につながるんです。
また、現実的、リアルな平和への選択肢を増やすという思いを、略称のリアルズ(REALs)に込めています。
――REALsは具体的にどのような地域で、どのような活動を展開しているのですか?
ガザ地区などで食料を始めとする緊急支援を行うと同時に、シリア、アフガニスタン、南スーダンなどで争いを予防し平和を築く役割を担う人材を、コミュニティや避難民のなかから育成するしくみをつくる取り組みを行っています。
結果、コミュニティの力で平和が実現できるようになった地域も多いです。
例えば激しい民族対立やテロが深刻だったケニアでは、スラムの若者や女性を育成し、平和の担い手として育ててきましたが、元ギャングだった若者が更生しコミュニティ団体をつくって平和の取り組みを続けたり、「スラムに希望もない」と語っていた貧しい若者たちが、いまでは大学で教えたり、警察の地区長になったりしています。
民族の和解を訴えるサッカーチームをつくって地域の子どもたちの希望になっているケースもあります。
寄り添う姿勢が信頼を生む
――そのような変化を生むには、現地の人々との信頼関係が欠かせないと思います。どのように築いているのでしょう。
自分たちの価値観の押し付けをせず、現地の文化や慣習、意見に耳を傾けることが大切だと考えています。
――REALsが現地で行っている取り組みの中で、特に力を入れていることは何ですか?
紛争やテロは何の前触れもなく起こるわけではなく、必ず予兆があります。
紛争が起きる前でも民族対立が激しい地域というのは、例えば民族間で結婚している夫婦の離婚が増えるとか、それまで他の民族のことを意識するような発言をしたことがない子どもたちが他の民族を差別する発言をする――これは大人が言っていることを聞いて子どもたちが変容していくのですが――そういった予兆があったりします。
私たちは、民族対立、資源を巡る争い、テロなど、その地域の抱えている問題が発生する予兆を地域に住む人々と共に特定して、それを回避する、予防する、悪化を防ぐための仲裁や対処ができる人材を育成し、対応する窓口やしくみをコミュニティにつくっています。
ケニアでは住民を育成した結果、治安の悪化やテロの芽を早期に摘むために警察、行政が連携して「コミュニティ対策会議」を月1回開催し、犯罪やテロにつながる異変などを情報共有し、犯罪やテロの予防に大きな成果が出ています。
せや・るみこ
1977年、桐生市生まれ。前橋女子高―中央大学総合政策学部卒。英ブラッドフォード大紛争解決学修士課程卒。ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネなどで国連PKO、外務省、NGO職員として勤務。2007年、認定NPO法人REALs(旧日本紛争予防センター)事務局長、2013年から同理事長。2011年、Newsweek日本版「世界が尊敬する日本人25人」、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012準大賞。2022年、米NEW YORK TIMES「世界に足跡を残す女性10人」選出。
認定NPO法人「REALs(リアルズ)」
| ホームページ | https://reals.org/index.html |
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