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育英レスリングに武者修行
米国から17歳のシドニー
2025.07.08
パリ五輪女子レスリングで2人の金メダリストを輩出した育英大レスリング部。創部間もない地方大学の驚異の強さを体感するため、世界から続々と選手が集う。米国ノースカロライナ州の女子高校生、シドニー・マークさん(17)もその一人。6月12日から1カ月間、単身で武者修行にやって来た。
祖母から繋がる群馬との縁
育英大キャンパス(高崎市京目町)にあるレスリング場。前橋育英高レスリング部の部員も自転車で通い、大学生と一緒に練習に励んでいる。
153㌢と日本の高校生と比べても小柄なシドニー。噴き出す汗をぬぐい、練習に懸命に食らいついている。
▲組み手から得意のタックルを狙うシドニー
高校に入ってからレスリングを始めたが、州大会で優勝するなど急に強くなった。さらなる進化のための武者修行には祖母から繫がる縁があった。
シドニーの祖母、ナンシー・ヘイスティングさんは1968(昭和43)年、いまのシドニーと同じ高校2年生の時、共愛学園高の第1号留学生として留学、その後、英語指導にもあたった。
▲思い出の共愛学園を訪問したナンシーさん(右から4人目)。その左にシドニーと母親
自分が青春時代を過ごした前橋を孫に見せたいと一昨年、一緒に来日した。そして、昨年のパリ五輪で育英大の2選手が金メダルを取ったことを知ったシドニーがぜひとも群馬で練習したいと熱望、ナンシーさんの友人である日本通信社長、福田尚久さん、しづえさん夫妻を通じて育英大レスリング部の柳川美磨監督に指導を依頼した。
夢は大きくオリンピック
練習は6時半からと14時半からの2回。朝は1時間半、夕方は自主練習を含めると3時間に及ぶ。「量も質も世界一」(柳川監督)という厳しさだ。
相手となる育英高女子レスリング部は昨年、1年生ながらインタハイで優勝した藤田眞妃琉選手をはじめ実力者ぞろい。スパーリングではテクニックで数段上の選手に封じ込まれている。
それでも、1カ月の間に確実に成長した。「基本の動作を繰り返し教えてもらった。トレーニングは米国では1日2時間程度。2倍になって厳しいけど、力が付いたのが分かるからうれしい。コーチが素晴らしかった」と笑顔を広げる。
8月のインタハイに出場する1年生の小島怜紗さんは「もともとフィジカルは強かったけど、テクニックも急に上手くなった」と目を見張る。
▲懸命に逃れようと踏ん張る
前橋市内の育英高校の寮の4人部屋で生活し授業にも出席しダンスを踊ったシドニー。「すき焼き、お好み焼き、寿司、みんな美味しい。東京より自然があって落ち着いていて大好き」とすっかり群馬での生活も楽しんでいる。練習は7月10日まで。家族と広島や京都を観光し帰国する。
▲パリ五輪金メダリストの元木選手と握手
「ユニバーシアード大会に出ること。そして、いつかオリンピックの舞台に立ちたい」
大きな夢を語る少女に、金メダリストを育てた柳川監督は「ここにいるみんなに可能性はある。頑張れば夢はかなうよ」とエールを送る。
▲英語で技術面を指導した柳川監督
レスリングの聖地に
育英大レスリング部は大学開学と同じ2018年に創部した。女子は五輪や世界選手権に続々と代表を送り込み、五輪3連覇の吉田沙保里選手らを輩出した至学館大を凌ぐ勢力。男子もOBが世界選手権に入賞するなど着実に力を付けている。
創部当初は高校時代に実績のある選手は入部することなく、パリ五輪金メダリストの元木咲良選手はインタハイ1回戦負けだった。
強さの源泉は柳川美磨監督を中心とした指導体制にある。生活態度を重んじ厳しい練習を科すとともに最先端のトレーニングで選手の潜在能力を引き出している。
育英大レスリング部の名は国内だけでなく、海外にも知れ渡り、練習の場を求めて来る選手が多い。各国のレスリング協会から派遣されるほか、SNSを通じて個人で武者修行に来る選手もいる。
7月はシドニーのほか、スイスの男子トップ選手3人=写真=と米国の男子選手1人を受け入れている。カナダの高校生も9日から18人が合宿。8月は中国から17人の選手団が合同練習する。
米国のナショナルチームとも合同練習し、指導方法をオープンにしている。「お互いに成長する。技術や指導を真似されるなんて小さなことは言わず、レスリングの競技文化を高めていきたい」と柳川監督は交流を歓迎している。


