interview
聞きたい
【聞きたい 角田克さん▶1】
「新聞の明日」はどうなるか
2024.11.05
朝の食卓でお父さんが新聞を広げる。こんな光景がかつてあった。社会面は三面記事と呼ばれ、テレビ欄は必需品。野球ファンはスポーツ面を真っ先に広げた。そんな新聞が危機的状況にある。読者が急減している。新聞は消えてなくなるのか。朝日新聞社の角田克社長を直撃した。
(聞き手・前橋新聞me bu ku編集長 阿部和也)
「空想家」と「魚の目」
―新聞離れが止まりません。
新聞協会加盟の新聞社約100社の発行部数は、15年前の1年間は100万部減でした。毎年、ブロック紙1社が消えていく規模です。いまは年間220万部減っています。全国紙が1社なくなっている規模になります。
―原因はどこにあるでしょうか。
インターネットの影響が大きい。広告費でみると、朝日新聞社の広告収入は15年間で約4割にまで減少しました。新聞広告はいま、全国の新聞社で約3500億円。テレビ広告は1兆7000億円超、ネットは3兆円を上回っています。
新聞社もネットへの移行を進めているとはいえ、プラットフォーマーに依存してしまいました。バラバラなコンテンツがただ並び、ニュースが無料だということにみんな慣れてしまっています。
―新聞社側にも問題がありそうですが。
ネットがなかった時代は情報を独占できました。これにあぐらをかき、BtoCをおざなりにしてきてしまった。
広告は代理店に枠を売ることを中心に、販売は販売店にお願いをしてきました。
編集はどうかといえば、記者クラブを通じて主要な情報が取れるという体制で長くやってきました。
大胆に言えば、新聞社はBtoCをほとんど考えることなく、自分たちはジャーナリズムをやれていると勘違いしてきたのです。ネット社会のいま、即効薬となるソリューションを見つけられない状況に陥っています。
― 体質的な問題があると。
ウォルト・ディズニーの成功は批評家とリアリストと空想家の三つが合わさったからだと言われています。記者は批評家、広告などビジネス部門の人間はリアリストになりがち。空想家がいない業界です。10年、15年先を考えたパラダイムの転換ができなかった。ブレイクスルーの発想が欠如していた。そして、いまがあるのです。
― 社員には何を求めていますか。
「魚の目」を持とうと言っています。記者はとかく「虫の目」で見てしまう。目先のことに集中してしまう。だから、「鳥の目」で広く俯瞰して見ることが必要だけど、さらにこの先、何が起こるのかを考えるときは「魚の目」が求められるのです。
「魚の目」は次の環境を作り出す潮流の変化を感じ取ることができます。ゆえに、もっと「魚の目」で世の中を見ていかなければならないと。
正しく整理された情報伝える
― 新聞はこのまま消えてしまうのでしょうか。
「紙」がなくなることはないと確信しています。発行数はL字型に推移するでしょう。2030年ぐらいまでは規模が小さくなっていくが、その先は一定の発行数はあると考えています。
世の中への関心が極めて高い知的層、ネットニュースでは全体像が把握できないと感じる人たちは一定数います。
一番大事な機能は権力を見ている人がいることを権力を持っている人にいつも気にかけさせることです。そして、新聞に期待されるのは記事を読めばそのテーマのいま、どうしてそこに至ったか、これから先はどうなるのか、そのすべてを正しく整理して分かりやすく情報を伝えていくこと。これは変わりません。
※朝日新聞デジタルの記事はこちらから。
※朝日新聞群馬県版デジタルの記事はこちらから。
県立前橋高出身、朝日新聞社長
角田克(つのだ・かつ)1965年、渋川市生まれ。群馬県立前橋高-早稲田大法学部卒。1989年、朝日新聞社に入社、東京本社社会部長を3年務める。常務、専務を経て、2024年6月から現職。趣味は街歩き。