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【出演者募集】
市民ミュージカル「灰になった街」 
誕生秘話を新陽一さんに聞く

2024.05.21

【出演者募集】
市民ミュージカル「灰になった街」 
誕生秘話を新陽一さんに聞く

市街地の80㌫が焦土と化し、535人が亡くなった1945(昭和20)年の前橋空襲から来年8月、80年を迎える。区切りの年に、空襲の悲劇を描いたまえばし市民ミュージカル「灰になった街」を上演する。出演者は全員アマチュアという全国にも珍しい“真の市民ミュージカル”。現在、出演者を募集している。このミュージカルがなぜ生まれたのか――、作者であり、まえばし市民ミュージカル実行委員会総監督の新陽一さんに話を聞いた。
(取材/阿部奈穂子)

歌とダンスが悲劇をファンタジーに

――「灰になった街」はどんなストーリーですか。

日米開戦の1941(昭和16)年12月から終戦の1945(昭和20)年8月までの物語です。戦局が悪化する中、前橋高等女学校生、新兵器開発に没頭する理研研究室員、北関東一の繁華街、桑町商店街(現在の千代田町アーケード街)の人々の姿を通して、戦争や前橋空襲の悲劇を描いています。

▲2015年 市民ミュージカル「灰になった街」舞台写真

――重いテーマですね。

「灰になった街」は悲しみだけでなく、笑いも涙も感動も詰まっています。

とはいえ、演劇で空襲を再現すれば、相当重苦しく、観ている人が辛くなるような舞台になるかもしれない。だからこそミュージカルでやる意義があるのです。

歌とダンスがある意味、救いとなり、悲劇も重くなり過ぎない。同時にファンタジックな世界として捉えることも可能となります。歌は、セリフよりも、はるかに感動的なメッセージを伝えられます。

前橋女子高音楽部のために制作

ーー新さんが前橋女子高音楽部の顧問だったときに作られた作品だとか。

はい。初演は2008年です。それまで、前女音楽部ではブロードウェイミュージカルなど既存の演目を演じていたのですが、全国高等学校総合文化祭が群馬で開かれることを機にオリジナルに挑戦したのです。2006年から制作を始めました。

――なぜ前橋空襲をテーマにしようと?

まず、前橋にまつわる話にしたかった。そして、シリアスなテーマが良かった。コメディーもいいのですが、笑いを取るには相当な演技力が必要なので、女子高生が演じるのは難しい。そんな中、前橋空襲について知りました。心にググっと来るものがあり、いろいろ調べ始めたのです。

▲前橋女子高音楽部で初演のときに作られた写真集

――どんなことがわかりましたか。

前橋女子高60年史のなかには、前女生と戦争の関わりがたくさん出てきました。学校で風船爆弾を作っていたこと、新前橋にあった理研工場(現在の理研鍛造)に勤労動員に行っていたこと。現在のイオンモール高崎の場所には堤ケ岡飛行場があり、特攻隊の訓練をしていたのですが、特攻兵に血書で、慰問の手紙を書いた生徒もいた。

比刀根橋防空壕に逃げて、生き残った語り部、原田恒弘さんの話も聞きました。そういったエピソードをつなげて台本を作ったのです。

▲前橋女子高音楽部のアルバムから

風化しつつある事実を伝えよう

――ミュージカルには曲も必要ですね。

部員の紹介で、当時、東京音楽大の3年だった前橋市出身の神山奈々さんにお願いしました。

初めてお会いしたときは、「こんなにあどけないお嬢さんで大丈夫かな」と心配したのですが、私が一番初めに送った歌詞「我れ奇襲に成功せり」につけてくれたメロディーに驚いた。全面的にお任せして大丈夫と確信しました。

全部で15、6曲の素晴らしい楽曲が誕生しました。のちに彼女は若手音楽家の登竜門、日本音楽コンクールの作曲部門で入賞を果たしています。

――「灰になった街」を演じた音楽部員たちの感想は?

最初は「もんぺを着るの?」「防空頭巾かぶって踊るの?」とピンとこない様子でしたが、練習している途中から「忘れかけられている、風化しつつある事実をいまの人たちに伝えるんだ」という使命感が出てきたようです。

自主的に前橋空襲について調べたり、原田さんを学校に招いて話を聞いたり。当時、前女生で空襲について無関心な子は一人もいなかったんじゃないかな。その年の音楽部員は総勢168人。前女生の6人に1人は音楽部員だったので(笑)。

▲前橋女子高音楽部 初演の舞台の1シーン

――「灰になった街」の翌年は「我愛你(ウォーアイニー)」、翌々年は「鎮魂華(ちんごんか)」を公演。前橋空襲三部作と呼ばれています。3年連続で新たなミュージカルを作り、演出するパワーには感銘を受けます。

それには裏話があります。一度、オリジナルに挑戦したら、やりがいはものすごく大きくて、もう既存のブロードウェイ作品に戻れなくなってしまった。

それで音楽部の2年生に「来年も『灰になった街』を上演しよう」と言ったところ、反対されたんです。いままで僕が言ったことに反対することは一切なかったのに(笑)。

――反対の理由とは?

「わたしたちは先輩たちとは違うオリジナルがやりたい」と言うんです。驚きました。

学校を2日休んで、できるかどうか考えましたよ。前橋女子高60年史をつぶさに読んだところ、前女には満州から2人の女子留学生が来ていた。これは、日中を結ぶ話ができるんじゃないかと思い、「我愛你(ウォーアイニー)」が生まれました。

せっかくなら3部作にしようと、その翌年、東京から疎開して前女に通っていた女性を主人公に、日米をつなぐ話「鎮魂華(ちんごんか)」を作ったのです。

▲前橋空襲3部作を作り上げた新さん

前女から市民の手へ

――なぜ市民ミュージカルになったのですか?

当時の前橋市長、山本龍さんから「ぜひ市民で公演してほしい」と依頼され、まえばし市民ミュージカル実行委員会を結成。戦後70年の2015年8月、「灰になった街」を一般市民の手で上演しました。

空襲をミュージカルにし、それを市民が追体験しているのは、日本中探しても前橋だけでしょうね。

――その後は1年置きに、三部作を市民たちが演じることになりましたね。

2017年は「我愛你」、2019年は「鎮魂華」。2021年は「灰になった街」を演じる予定でしたが、コロナで延期となり、2023年に公演しました。

来年2025年は順番でいくと「我愛你」の予定でしたが、戦後80年、前橋空襲から80年ということで、記念碑的な作品である「灰になった街」を公演することになりました。

▲2015年 市民ミュージカル「灰になった街」舞台写真

――なぜ来年の公演の出演者をいまから募集するのでしょう。

各地で行われている市民ミュージカルの多くは、主役級はプロが演じ、脇役を市民が固めるという形です。これなら簡単に舞台ができあがりますが、まえばし市民ミュージカルは全員がアマチュアです。歌やダンスを特別に勉強してきたわけではありません。

1年かけて約70回、しっかりと練習して舞台に立ってもらいます。

――どんな方に応募してほしいですか。

音楽が好きという方ならどなたでも。下は小4以上、上は年齢を問いません。これまでには実際に空襲を体験したという高齢の男性も参加してくれました。

しいて挙げるとすると、若い男性が少ないので、10台後半から30代前半の男性は大歓迎です。

現在30人の応募がありますが、100人強まで増えるといいなと思っています。

▲2015年 市民ミュージカル「灰になった街」舞台写真

まえばし市民ミュージカル「灰になった街」

オーディション申し込み

ホームページ https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdHfFlKFWjOM08PM56Gs9-O46NW3KUa8lFaui-KcQVbmNBtJg/viewform
オーディション日時 8月11日(日)10時または13時
オーディション会場 前橋市第三コミュニティセンター ホール(前橋市岩神町3-1-1)
対象 小4以上
費用 無料
応募締め切り 7月20日(土)必着
練習 8月28日より毎週水曜19時~21時30分
毎月第2日曜13時~17時(2025年1月より第2・4日曜)
練習会場 東公民館、第三コミュニティセンター
公演日・会場 2025年8月2日(土)、3日(日)、昌賢学園まえばしホール大ホールにて