【萩原朔美の前橋航海日誌vol.1】
水の都

七夕祭りの朝、街中を縦横に流れる用水路に、無数の笹舟が船出する。
あるいは、毎年田植えの日に、上流から豊作を願って書いた黄色の短冊が一斉に流される。そんな幻想が散歩の途中に浮かんでくる。
というのは、前橋の住宅地を散歩していると、必ず豊かな水量を誇示する水脈に出会うからだ。これは新鮮な体験だった。いったい何本ぐらいの流れが街中に張り巡らされているのだろうか。ルーツは用水路だろうか。蚕糸業にも役立ったのだろうか。頭の中にも好奇心の川が流れ出す。だから思わず撮影してしまうのである。
軒下に流れる用水路が音楽を奏でている。 交差点の下を潜る用水路が舌打ちしている。
マンションの駐車場の横を流れる用水路から、山の便りが届く。
水の都前橋が、この無数の用水路を活用してベネチアのようになる奇想は楽しい。旅で体験したベネチアのタクシーはモーターボートで、自転車は手漕ぎの船だった。その光景が前橋とダブってくる。
そう言えば、朔太郎がデザインしたマンドリンクラブのシンボルマークは、ベネチアのゴンドラだ。きっと、前橋の水の流れを見て連想したのだろう。前橋は水の都としても歴史があったのだ。

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